* 岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科 Department of Biosphere-Geosphere System Science, Faculty of Informatics, Okayama University of Science, 1-1 Ridai-cho, Okayama 700-0005, Japan. E-mail: wadatumi@big.ous.ac.jp
** 岡山理科大学大学院理学研究科総合理学専攻 Applied Science, Graduate School of Science, Okayama University of Science, 1-1 Ridai-cho Okayama 700-0005, Japan. E-mail: haraguti@das.ous.ac.jp
キーワード:集集地震,嘉義地震,蚯蚓,馬陸
Key words:Chichi Earthquake,Chiayi Earthquake, Earthworm, Thousand-leged Worm
「馬陸(バルー)」:高雄市の国立中山大学生物学系の施習徳先生と上司の張學文教授と面談する.各地の前兆異常調査で非常によく耳にする「馬陸(バルー)」のホルマリン浸けの標本(黄重期氏採集)を見せてもらう.動物学研究所だけあり各種の標本が揃っている.千足動物で,大型は10cm〜15cm,小型は3cm〜4cmである(写真1).
証言(1) 2000年3月15日(水):屏東市での合同調査.ミミズ大量発生の情報が寄せられた屏東市の慈恵高級護理産職業学校を訪問.陳淑姫校長に挨拶,校庭芝生のミミズ異常発生の写真を撮った軍人指導教官の曾文全先生から直接証言を得る.彼は学校内の異変を常に注意する立場にある.彼の話によると1999年の9月頃より年末にかけて合計4回のミミズ異常発生を目撃している.このうちの3回は校庭に大量のミミズが現れ南南東方向に避行していた.第4回目は多方向であった.第3回目は写真撮影されており,撮影日は10月16日,22日の嘉義地震6日前であった(写真2).
証言(2):昼からは屏東県新園郷の農業会の紹介でミミズの異常発生の新しい証言者(先生)とお会いした.10月16日をピークに屏東県恒春,潮州など広域にミミズの異常発生が知られている.関係者の証言を総合すると16日をピークに前後数日のズレがある.この先生は,その際捕まえたミミズを飼育し,生態や行動の日変化を研究している.
証言(3) 3月16日(木):台南市濱南路の宏友釣具店主による証言であるミミズや馬陸(千足類)の異常行動は印象的であった.集集地震と嘉義地震のかなり前から,裏庭を通って家屋のあらゆる隙間から進入してきた.毎日ほうきで掃き集め外に捨てた.家の隙間を板やシリコンゴムで封印した.その跡が生々しく残っていた.馬陸の死骸を家の隅から拾い集めて見せてくれた.
証言(4):台東市の国立台湾史前文化博物館卑南文化公園に行って郭慶徳先生(九州大学で研究)に前兆現象の有無を聞いた.その先生の証言によると広大な芝生を毎日作業員が管理しているが,地震前後でのミミズ,馬陸,コブラなどの異常出現は見られなかった.この証言は北東海岸の花蓮市と同じ結論である.
証言(5) 1999年11月18日(木):南投県集集鎮の林明泰鎮長の証言によると集集地震の2〜3週間前(証言者により多少異なる)よりテニスコート上を馬陸(千足類)が無数に這い回った.また、南投市李朝卿市長も地震前1〜2週間前より馬陸が家の周りを這い回った.それ以後の比較的大きな余震でも馬陸は出現したので地震予知には大変有効に思えるとのこと.運動の方向性は不明である.
結論:ミミズや馬陸の異常行動は1999年9月〜11月で4回観察される.その期間以外には異常現象の観察は認められない.この期間で規模の大きい地震は第1回の集集地震(M7.7,9月21日)と第3回の嘉義地震(M6.4,10月22日)で,ミミズは何れも南南東に避行する.第2回の10月初め(?)に南南東に避行した異常行動に対応する玉山付近の地震(M5.0,10月1日)と第4回の11月初め(?)の多方向の避行は花蓮沖地震(M6.6,11月2日)に対応付けることが出来よう.ミミズや馬陸による前兆異常現象は主に台湾中部(震源地),南西部の平野部に限られ,太平洋に面した東海岸域ではまだ知られていない.この関係を図化したのが第1図である.
第1図