* 岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科 Department of Biosphere-Geosphere System Science, Faculty of Informatics, Okayama University of Science, 1-1 Ridai-cho, Okayama 700-0005, Japan. E-mail: wadatumi@big.ous.ac.jp
** 岡山理科大学大学院理学研究科総合理学専攻 Applied Science, Graduate School of Science, Okayama University of Science, 1-1 Ridai-cho Okayama 700-0005, Japan. E-mail: haraguti@das.ous.ac.jp
*** 岡山理科大学理学部基礎理学科 Department of Applied Science, Faculty of Science, Okayama
University of Science, 1-1 Ridai-cho Okayama 700-0005, Japan.
キーワード:集集地震,嘉義地震,前兆異常
Key words:Chichi Earthquake,Chiayi Earthquake, Precursor Anomaly
1999年10月17日(日)〜24日(土)の1週間,台中県と南投県の震源地を中心に地震直前の宏観異常現象の現地調査を行った.また,2000年3月5日(日)〜18日(土)の2週間,主に台湾南西部と東部海岸部(震源地から比較的遠距離)の前兆異常現象の調査を行った.調査方法は,(1)従来からの宏観異常現象項目をアンケート形式にまとめておき,この項目にチェックする方式,(2)面接方式で具体的に個人から証言を取り,その証言場面をVTRに映像として記録する.以下の証言(1)〜証言(18)は後者のもので,証言者の一人一人に状況に応じて詳細に聞くことができるが,それだけ時間を必要とする.
証言(1)集集鎮の林明泰鎮長,老人会員役員の6人による証言.「2週間前に集集大山の野生サルの大群が山から降りてきて,地震直前には木の枝に鈴なりで木の枝を揺すり,異様な泣き声で叫んでいる真っ最中に地震がきた.地震直後の3時間後に再度,山に消えた.」一般市民からも同様のサルの異常証言を聞いた(証言VTR).
証言(2)「台湾では9月にはツバメが町を飛び回っている.このツバメが2週間前からぱったりと姿を消した」(証言VTR).
証言(3)「林鎮長の池に飼われていた数十万円もする高価な錦鯉が3日前に池の壁に頭を打ち付けてすべて死んでしまった」(証言VTR).
証言(4)「普段よく釣れた釣堀の魚が地震前日には全く釣れなかった.」
証言(5)「地震直前1月〜2週間前,(台湾名「馬陸;バルー」,日本名は「ゲジゲジ?」)が無数に現れ,そこら中を這い回った.」
証言(6)林鎮長が毎日見回って管理している集集大山の麓の町水源池が3週間前より白濁し,直前3日前に透明になって地震が発生した.1週間後の余震M6.5の前,また1ヶ月後の嘉義地震M6.4の前にも水の白濁が認められた.そこで林鎮長の案内で集集大山の山麓の水源地と浄水場を見学する(証言VTR) 第1図.
証言(7)南投市李朝卿市長は地震前に地鳴りや鳴動を聞かれ,発光を観察された.
証言(8)李市長は地震前に肉体的トラブル(足がつる,背中がはる)があったが,地震後に消えた.日常見られない馬陸が家の周りを這い回った後に地震が発生した.以後の余震でも馬陸は出現したので地震前兆として使えそうだ(証言VTR).
証言(9)南投県埔里鎮から国姓鎮の山岳地の地滑り被害地を甫里警察のパトカーで視察した.谷入り口で入山制限をしていた村長に面会し,地震前の異常現象について質問した.多くの住民の証言によると地震前に舗装した山道があちらこちらで焼き餅のように膨らんで落差ができ,異常だったとのこと(証言VTR).
証言(10)中原里村の被災者のおじいさんを再度訪問した.半壊した家の前にナイロンテントを張って自炊しておられる.そこで地震前後の話を詳細に聞く.このおじいさんは日本小学校出身で片言の日本語ができる.愛犬「くろ」の地震前異常行動の説明に迫力がある.「地震前夜,くろは普通の鳴き声ではなく,オオカミのような遠吠えを繰り返していた.台湾ではオオカミ声は不吉とされ大変気にしていた.地震直前に,繋いでいた鎖を引きちぎり逃亡した.その直後に地震で玄関が倒壊し犬小屋は潰されたがくろは助かった.自分は倒壊した柱の間から這い出して助かった」(証言VTR).
証言(11)国立中央大学大空観測センター主任教授の劉振栄教授と面談.超高空エアロゾル の常時観測データの1998-1999年9月分(集集地震前後)見せていただく.9月中頃から見事に変化するも1年前も同様な変化があり,地震の影響を評価することが困難であった.(証言VTR).
証言(12)岡山理科大学のエアロゾル測定器と同じ原理で,地表付近の帯電エアロゾルを測 定している環境研究センターの呂世宗教授(センター設立者)と張哲明助教授に連絡をとり,集集地震前後のデータを見せていただく.大気中の帯電エアロゾルが地震の3日前より見事に異常上昇し,予想通り神戸計測の直前異常と同じパターンであった.台湾では環境モニタリングを兼ねて数台を全国配置し地震予知にも活用したいとのことであった(証言VTR).
証言(13)花蓮市へ飛行機(立栄航空会社)で行く.午後に花蓮県の県庁を訪問,役所の漁業 課長に地震前兆の話を1時間ほど聞く.県下の農作物,養殖魚,その他に地震前の異常現象は全く観察されていなかった.太平洋東海岸域の花蓮県では,日常的に地震が多く西方山岳域の921集集大地震の前兆現象を特別に認識していない(証言VTR).
証言(14)高雄市の国立中山大学では,地震前兆動物としてよく耳にする「馬陸(バルー)」のホルマリン漬けの標本を見せていただく.動物学研究所だけあり各種の標本が揃っている.馬陸(バルー)は千足動物で,大型は10cm〜15cm,小型は3cm〜4cmが保存されていた(証言VTR).
証言(15)施習徳先生は海浜動物(シオマネキ)の専門家であり,非常に行動的な人物であった.地震前兆異常に大変興味を持たれ一緒に調査に当たる.高雄市北西部に広がる魚・カニ・エビなどの養殖池をかなり丹念に調査した.魚とエビには地震直前の変化は感知されていない.カニは地震1〜2日前に池の土手に無数に這い上がり異常であった(証言VTR).
証言(16)台湾海峡の漁業者らの話では,地震前1〜2週間前に底ものの魚が大量に獲れたが,現在,地震後すでに半年が経過しているが全く漁にならない(証言VTR).
証言(17)台南市濱南路の宏友釣具店主による証言のミミズや馬陸の異常行動は印象的であった.地震前1ヶ月頃から裏庭の方向(北東)より微細な隙間から家に進入し,毎日ほうきで掃き集め外に捨てた.隙間を板やシリコンゴムで封印した.その跡が現在も生々しく残っていた.馬陸の死骸を家の隅から拾い集めて頂いた.(証言VTR).
証言(18)高雄発7:30の鈍行列車で台東へ向かった.午後,台東の国立台湾史前文化博物館卑南文化公園に行って,郭慶徳先生(九州大学で研究)に前兆現象の有無を聞いた.その先生の証言によると「広大な芝生を毎日作業員が管理しているが,地震前後でのミミズ,馬陸,コブラなどの異常出現は全く見られなかった」とのこと.北東海岸の花蓮市と同じ結論である(証言VTR).
集集地震後の断層(第2図)