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SPM中のウラン系列・トリウム系列の放射性核種の存在とその重要性

The existence of the radioactive nuclei of the uranium and thorium series in SPM and their significance


岡山理科大学 ○蜷川清隆、弘原海清、福森洋平、井田佳伸、平井麻理子、葉山義仁


(Abstract) We detected radioactive nuclei of the thorium series as well as the uranium series 210Pb by a low background Ge-LEPS ?-ray detector in SPM collected from air. They are 212Pb, 212Bi, and 208Tl. Their activities were 34mBq/m3 on 5th April. Required initial concentration of Thoron (220Rn) is low, and a decay constant of 212Pb is large, comparing with Radon (222Rn). These characteristics are assets for monitoring to radioactive environment in atmosphere.



  対流圏大気の電離は主として宇宙線や自然放射性核種に起因している。自然放射性核種には、ウラン系列、トリウム系列、アクチニウム系列、40Kなどがあるが、化学的性質と半減期から、ウラン系列のラドン(222Rn)とその娘核種が陸上下層大気の電離に大きく関わっていると考えられてきている1)。
ところが、大気中イオン濃度とウラン系列の210Pb濃度との相関を調べる目的で、大気中の塵を集め、Ge-LEPS 半導体検出器で?線のスペクトルの測定を始めたところ、46.5keV (210Pb, 半減期 22.3y, U系列), 477.8keV (7Be, 53.28d, 宇宙線生成核種), 511keV (β+ annihilation) のピーク以外に、115.17, 238.62, 300.09keV (212Pb, 10.64h), 39.86, 727.17keV (212Bi, 60.55m), 277.35, 583.14keV (208Tl, 3.05m)のトリウム系列の放射性核種の大きなピークが検出された。下図に4月5日に集塵した試料のGe-LEPS ガンマ線スペクトルを1例として示す。 トリウム系列の212Pbの半減期は10.64hである。更に確認のため、半減期測定をしたところ、次ページの図のように212Pb, 212Bi, 208Tlとも約10hの半減期で減衰しているのを確認した。212Pb, 212Bi, 208Tlは放射平衡を保ちつつ減衰している。


今回、我々がトリウム系列の放射性核種を大気から集塵した試料から検出できた理由の1つは、集塵直後、時間を経ずに?線測定をおこなったことがあげられる。またガンマ線測定器は、熱ルミネッセンス年代測定用として土中のU, Thの含有量を測定するために準備された低バックグランドの測定器であったためと考えられる。このガンマ線測定器は低エネルギー用の半導体検出器Ge-LEPS (Low Energy Photon Spectrometer)で、外側を厚さ100 mmの鉛レンガで囲い、更に厚さ25 mmの古い鉛と厚さ10 mmの無酸素銅で内装している。バックグランドは10-800keV領域で8.64±0.08 cpmで、バックグランドに目に見えるピークのないガンマ線測定器である。
このトリウム系列の放射性核種は、岡山理科大学で集塵した場合のみならず、大学から離れた岡山市郊外で集塵をおこなった場合でもが存在すること、また4月5日のみならず、その後の毎日の集塵・測定でも検出されている。トリウム系列の放射性核種は大気中に空間的にも時間的にも普遍に存在している。
トリウム系列放射性核種は大気中にどのように存在しているのであろうか。ガンマ線スペクトルには228Acの338.7keV、234Thの63.2keVのピークが見られない。このことから、トリウム系列のトロン(220Rn)、及びウラン系列のラドン(222Rn)以前の親核種は集塵されていないと推定される。
Ge-LEPSの検出効率、ガンマ線放出率から4月5日における採取した試料の212Pb及び210Pb、各々のActivityは約12 Bq, 約0.7Bqと推定される。集塵器の空気の流量を260 l/minとすると1日で3.74x102 m3となり、単位体積当たりのActivityはそれぞれ34 mBq/ m3, 2 mBq/m3となった。トロン(220Rn)が大気に供給されてから約1日半後に測定開始し、212PbのActivityとして34 mBq/m3を得たとすると、トロン(220Rn)濃度の初期値は約2 x 104 /m3となる。ラドン(222Rn)が大気に供給されてから約1日半後、8 Bq/m3のActivityを保持するのに必要な濃度の初期値、約5 x 106 /m3と比較して、この濃度は極めて低いと考えられる。また、212Pbの半減期は10.64hで、ラドン(222Rn)半減期3.8日と比較して短い。この為、トロン(220Rn)による大気放射線環境は短い時間で更新される。大気中のトリウム系列放射性核種は、感度の点からも時定数の点からも大気放射線環境をモニターするのに非常に良い核種と考えられる。また、210PbのActivity 2 mBq/m3は小村の桜島での210Pb放射能測定値と一致したオーダーとなっていた2)。

References
1) 北川信一郎編著:大気電気学、第3章 イオンとエアロゾルpp.45-77(東海大学出版会)
2) 小村和久:火山から放出される放射性エアロゾル‐桜島を中心として‐.エアロゾル研究, 10, 276-282 (1995)

日本エアロゾル学会