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地震危険予知プロジェクト
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大気イオン化の主要原因物質トリウム系列の放射性核種212Pbの役割


The radioactive nuclide 212Pb of the thronium series;an important cause material of atmospheric ionization


(岡山理大) ○弘原海清, 蜷川清隆、井田佳伸、(大阪市大)原口竜一


(Abstract) Since July of 1997, the atomospheric ion density (AID) has been continuously measured at our loboratory in Okayama University of Science (OUS) in order to evaluate the relation between the AID and magunitudes of subsequent earthquakes. We detected radioactive nuclei of the thorium series with the uranium series in SPM collected from the air. Among them, 212Pb of the thronium series seems to be an important cause of atmospheric ionization.


1.まえがき

  岡山理科大学では1998年より現在まで神戸電波製 ION ANALYZER KSI-3500を導入して自然大気中の大気イオン濃度を連続して観測し、研究室のWebサイト e-PISCO (http://www.pisco.ous.ac.jp/)上で公開してきた。このサイトの公開目的は、大気イオン濃度と引き続く地震との関係を公開下で検証することである。市民掲示板を通じて寄せられる意見には、大気イオン発生の根拠と大気イオンで地震予知を可能とする科学的根拠を示すよう求めるものが多い。従来、自然大気の電離作用は自然放射性核種の放射線によるものが主要因と考えられる(北川,1996)。我々も地震予知に有効とされるウラン系列222Rnとその娘核種を中心に測定を行い長寿命核種 210Pbを確認したが、短寿命の放射性娘核種は計測できなかった。
  4月5日以後に一日単位の測定を計画し、24時間採集の浮游粒子状物質(SPM)をγ線スペクロル測定のGe-LEPS半導体検出器で80000秒の計測を行った。計測はフィルター交換の直後から始められた。結果として、トリウム系列のトロン短寿命娘核種, 216Po, 212Pb, 212Bi, 208Tl, 212Poの大部分が確認できた。トリウム系列の212Pbは半減期が10.6hであり、ラドン系列の222Rnの半減期3.82d、210Pbの22.3yと比較して充分に短い。自然大気にたいする電離作用も強くて短寿命であり、自然大気イオンの放射能環境が短時間に更新されるなど地震予知に役立つと考えた。そこで、岡山理科大学の単一観測点での試行実験として大気イオン濃度とSPM放射線核種の濃度変化を時系列的に計測し近隣で起こる地震との関係を調べることにした。

2.単点試行実験の詳細

 今回は、4月5日から5月17日までの40日間に岡山から半径250km以内で発生したM4.0以上の地震3個と、岡山での放射性娘核種濃度と大気イオ濃度との時系列変化を計測した。

最初、粉塵用フィルター(径60mm, 捕集効率0.312um)でSPMを48時間採集し、GE-LEPSで160000秒の計測を行い長寿命核種の210Pbを確認した。この際、半減期の長い210Pbに焦点を置き、計測前時間を長く取りすぎ短寿命娘核種のピークを欠測した。6月5日以後、一日単位の測定計画を立て、24時間採集 80000秒の計測をフィルター交換直後から始めた。結果として、トリウム系列のトロン短寿命娘核種, 216Po, 212Pb, 212Bi, 208Tl, 212Poの大部分が確認できた。それら核種の理論的な相互関係を上図に示す。

この40日間の24時間計測データを時系列グラフとして上図に示す。238keVの212Pb(10.64h)の放射能強度を吸引大気量で標準化した曲線(/m3)、集塵SPMの重量で標準化した曲線(/mg)で示す。その際の吸引大気量(m3)とSPM重量(mg)曲線も合わせて図示した。大気イオン濃度(個数/cm3)の変化は同時発表(井田他)の中で図示した。この期間に観測点から半径250km以内でマグニチュードM4.0以上の地震(3個)の規模と時間も重ねた。これらデータの相互関係について検討する。

3.結果の検討

  トロン娘核種放射能の時系列変化は4月5日の新計測法で最大値となる。この新計測法の開始日は愛媛県南予地方の4月6日地震(01時57分, 緯度33.4, 経度132.5, 深度40km, M4.8, 距離190.5km)の前日である。岡山地方ではM4.0以上の地震は数少なく、放射性核種の異常はこの地震の前兆であると推定できる。残念ながら4月5日以前の新計測データは存在しない。
トロン(220Rn)が地下から大量に放出し大気中を娘核種を形成しながら拡散し一部が岡山に移動する。トロン(220Rn)以前の親核種が集塵されないことからラドン・トロンの希ガス噴出が最初の出来事と推定される。この希ガスか発生し秒速で金属娘核種ができ、これが大気中で微量気体や水蒸気に反応して超微粒子(nmサイズ)のフリー娘核種を作る。これが移動中にエアロゾルに付着し付着娘核種(放射性エアロゾル)ができる(児島,1995)。これらは強い放射能を維持しながら拡散しつつ一部が岡山に到る。この際の放射能強度は、本来の放射壊変と水平・垂直拡散減衰(希釈項)との和、即ち見かけ壊変常数となるとされる。
この希釈項が求まると平均滞留時間が推定される。吸引大気量(m3)で標準化した放射能強度曲線は希釈項を含み単位体積中の娘核種の濃度を示す。これに対し、SPM重量(mg)で標準化した放射能強度曲線は単位重量 内の娘核種の強度を示し、希釈項を含まないと推定され る。移動初期にエアロゾル粒子の粒径がほぼ一定だと仮定すると、それ以後の移動中は重さ当たりの強度変化(拡散減衰)が補正された値に近く、両者の差から移動距離を推定できる。
児島(1995)は、ラドン系エアロゾルの付着係数がエアロゾル濃度と粒径分布に依存し、フリー娘核種とエアロゾル付着娘核種が種々の平行関係にあることを散布図を使って詳細に述べている。この5年近く岡山理科大学で計測を続けている大気イオン濃度(0.02um以下)は、この理論におけるフリー娘核種を一部含み、その他の大部分は付着トロン放射性娘核種による周辺大気の電離作用による正・負の大気イオンであろう。4月5日のラドン娘核種212Pbの放射能強度をもとに電離イオン数を計算すると約2000(個/cc)であり、実測値にほぼ対応する。

4.まとめ

・自然浮遊粒子状物質SPMの放射能分析から長期にわたりトリウム系列の放射性短寿命娘核種を認定した。
・トリウム系列の娘核種(212Pb)は半減期10.6時間で、大気の放射能環境を日々更新し、放出原因の地震活動などを常時モニターできる可能性がある。

引 用 文 献
(1)児島 紘(1995) エアロゾル研究、10(4), 265-270
(2)北川 信一郎(1995) 大気電気学、東海大学出版会
(3)岡山理科大学地震危険予知研究会(1998-2002) e-PISCOのWebサイト; http://www.pisco.ous.ac.jp

日本エアロゾル学会