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地震危険予知プロジェクト
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 第26回FRPシンポジウム
 招待講演
 (平成9年3月13日 同志社大学田辺キャンパス)

地震前兆としての物理信号と動物異常の関係を探る

弘原海 清(岡山理科大学総合情報学部)

Natural Warning Signs of Earthquakes concerning from Anomalous Animal Behaviors due to Physico-chemical Signals

Kiyoshi WADATSUMI, Okayama University of Science, Faculty of Informatics, 1-1, Ridaicyo, 700 Okayama

はじめに
 日本・中国・ヨーロッパの歴史上の大地震の前には、ほぼ必ずといってよいほど、自然や動物に日頃経験しない異常な現象が住民に観察されると言われる。この住民が観察できる地震前兆異常を中国では「宏観前兆異常」と呼ぶ。阪神淡路大震災の直後(95年2月10日)、マスコミを通じて「地震の前兆的異常を体験された方は大阪市大の学術調査団まで」とお願いし、その結果、3月末までに1519通の前兆証言が住民の方から広く寄せられた。
 提供された1519通の証言より一定の基準で1711事例(平均、1証言に2事例)を抽出し、分類と集計作業で10カテゴリーに分類し、その事例数を求め、ダイアグラムにした。自然現象では「空と大気の異常」、「大地の変化」、動物では「人間、獣類、鳥類、魚類、は虫類、昆虫など」、「植物」はひとまとめ、その他にはテレビ・ラジオなどの電波障害、画像障害、リモコン故障にみる「電磁気異常」などがその主な内容である。また、すでに地震前30日前頃より震源地からおおよそ半径100km程度の範囲で、従来から世界的によく知られた宏観異常が同時多発し、24時間前にピークに達していた。この結果は「生の証言」とともに「前兆証言1519!」(東京出版)で公表した。
 獣類はなぜ震前に異常反応を起こすのか、なにが刺激シグナルか。一般に超音波、電磁波、地電流、磁場、帯電エアロゾル、臭気など地震に伴う物理−化学的な異常信号が動物に異常行動を起こさせるストレスだと考えらている。しかし、何れも科学的に検証されたものではなく、未知の科学「未科学」と呼ぶ分野のものであり、これまで科学的、実験的に取り組んだ研究者はほとんど知られていない。また、実際の地震を使っての検証が困難だけに研究が進みにくい。
 日本の歴史地震、例えば関東大地震、安政東海地震など数多くの被害地震で宏観異常が詳細に調べられ膨大な資料が存在することが次第に分かってきた(力武1956など)。また、「前兆証言1519!」の成果の一つとして、従来日本でタブー視されていた宏観異常が地震学者の世界から飛び出し、市民や広い専門研究者から再認識され、野外・実験科学的なな研究対象になりつつある。このような研究分野の現状を紹介したい。

1.実験的・野外観察的な検証
1−1.地電流
(1)地電流の発生メカニズム(池谷モデル、1996)

 地下の岩盤を作る花崗岩などに含まれる石英は、一定方向に圧力が加わるとプラスとマイナスの電荷(分極電荷)が両端に分かれて発生する。この電気分極をピエゾ効果と呼ぶ。断層地帯には何百年もかかって大きな歪み応力が蓄積し、ピエゾ効果によって大きな分極電荷qpとそれを打ち消す束縛電荷qbが均衡を保って存在する。このような歪み状態にある岩体に部分的破壊(小断層)が起り始めると、歪み応力が部分的に解放される。分極電荷qpが減少すれば束縛荷電qbも解放され、qb−qpの自由電荷qの電流が発生する。これが地震前の一連の地電流で、前兆異常を起こすと考えられる。

(2)電流に対する動物異常の実験
 金魚やメダカ、ドジョウなどを、10〜20cmで銅製電極板を対極させた水槽を準備し、その中に自然状態で放流する。リスやハムスターは、水槽の中に湿らせた布を敷き、その底に約30p離して電極を入れる。実験は0〜30Vの交流電圧で約1秒間隔で断続的にon/offして電流を流し、動物の異常反応を記録する。この実験条件での電界強度(V/cm)と電流密度(mA/cm2 )を算出する。動物の異常反応はVTRで、また電界強度に対する各種動物の反応の感受性を図にまとめた。実験動物の中でナマズが最も敏感であった。

1−2.岩石破壊実験と動物異常
(1)岩石・鉱物の圧砕と発光・電磁波の発生

 岩石・鉱物を圧砕すると、その瞬間に発光する。近接の電磁波センサーにパルス状の白色ノイズが記録される。この実験により破壊時に発光と電磁波が放出されることがわかる(VTR)。

(2)花崗岩の加圧と近接ネズミの異常行動
 次に、数百トンプレス機に花崗岩の試料を置き加圧する。その近傍に透明プラスチック容器に3匹のネズミを入れ、数時間放置して環境に慣らす。加圧を進めると、ある段階よりネズミから自然さを失ない、徐々に異常行動が現れる。さらに加圧が進むと顔面ブラッシング、体毛の逆立ち、失尿、個体間の絡まりなどの異常行動が現れ、最終的に歩行不能で床に横たわる。この段階でも花崗岩試料はまだ破壊にいたらず、電磁波センサーにも特別なシグナルは関知できない。さらに加圧が進み、花崗岩が最終破壊にいたるところで電磁波が観測される。しかし、ネズミは横たわったままである(VTR)。
 ここでのネズミに対するストレス信号は何であったのか。電流とは完全に遮断されており、電磁波も観測可能な程度ではない。超音波AEの可能性はモニターされていないので分からないが、今後の研究に待つ必要があろう。
  
1−3.帯電エアロゾルと粉体噴出
(1)H.トリビッチの帯電エアロゾル仮説(渡辺訳、1985)

 空気中のプラス帯電エアロゾルは生物の体の中のホルモン分泌を狂わせ、セロトニン症候群を引き起こすことが知られている。高等動物に対しては神経系統と体調の不全をもたらす。地震前に地中から帯電エアロゾルがでてくると仮定すると(誰も確かめた人がいない)、このことが動物異常行動を説明する鍵となるとして、帯電エアロゾル仮説を提唱している。

(2)地震前の帯電エアロゾル連続観測(神戸電波)
 (株)神戸電波は帯電エアロゾル・テスターのメーカーとして有名である。イオン粒子の粒度別フラクション(10区分)にたいする1立方センチ当たりのプラス・マエナスイオン個数を自動計測できる測定器を作成・販売をしている。測定器を購入した関係で知り合い、大震災の前から機械の検定のため周辺空気のエアロゾルの値を常時観測していた。このデータによると神戸で8日前よりエアロゾルの値が2桁程度、異常に増加しており、空気の異常を報道機関に通知している。それ以後、地震で機械が壊れるまで帯電エアロゾルの計測を続け、異常状態をグラフにまとめている(VTR)。

(3)野島断層からの渦巻地震雲と帯電エアロゾル(陸上)
セミプロカメラ女性の杉江さんが、1月9日、午後5時頃、神戸の垂水港で建設中の明石大橋を背景に夕日を撮影中、見事な渦巻地震雲の連続写真をとられ、その写真を提供してくれた。「前兆証言1519!」の表紙の写真は別人が神戸の高台から撮影したもの。これらの写真の撮影方向から、この雲は確かに野島断層から噴出したもので、我々以外にも多くの人が噴出口の現地調査をしている。
この雲は工業技術院機械技術研究所榎本部長のグループが、撮影条件(1分間隔、強い西風4〜6m/sのもとで、上端2000メートルまで垂直)では、ガス衝撃波を伴って超音速で噴出する必要がある。粉体の2次元流体解析シミュレーションでは、この気圧傾斜度力に逆らう動きは説明できず、電磁流体効果を考慮する必要があるかもしれない(e-mail)。気象庁は「現実にはありえないことで、雲ではあるが雲ではない」との回答だったそうである。日時が神戸の帯電エアロゾルの急増と一致していることから、相互に関係することを示唆している。

(4)明石海峡の海中渦噴出(余震VTRと前兆証言) 
 震源地は明石海峡にあり、野島断層や六甲断層系も海岸付近を平行して走っている。先の渦巻き地震雲のような噴出が海中にもなかったか。「前兆証言1519!」中には、地震前に海峡や淡路島西部、東部の海中に泥水が異臭をともなう泡と共に噴出したとする証言が数多く寄せられている。地震の直後、NHKのヘリコプターから余震に伴う海底噴出の巨大な映像が見事にVTRに収められていた。あの急流で有名な海峡の海水が、数カ所のセンターから積乱雲がわき上がるように、黄土色の渦が噴出し、青い海水を懸濁し瞬く間に泥水の海に変える。 このように地震の前後には、地下より電気を帯びた多量の粉体、微粉、イオンなどが陸上でも、海中でも噴出していたことが容易に想像される。この環境から逃れるために、海の魚が海岸をよじ登るがごとく岸に頭を並べて群がり、河を大挙遡上するなどの異常行動を、また、陸上でも動物や人間に異常が現れたと考えられる。

(5)プラス帯電エアロゾルと動物異常
 岡山理大でも簡単な実験システムを作ってプラス帯電エアロゾルと動物の異常反応の実験を行った。高電圧のイオン発生器でプラスイオンのみ発生させ(微小イオンで外気の1桁増、プラスイオンで数100個/cc)、湿度・温度が充分制御できない空間であったが、その中で動物の異常行動を観察した。人間も含めて動物に強い刺激を与えることは観察できたが、その影響がプラスイオンによるのか、イオン発生器からでるオゾンや窒素酸化物によるのか不明である。さらに、異常の評価・測定法など多くの難しい問題が潜在し、この分野は生理学者などとの共同研究が不可欠である。

おわりに
 京阪神を中心に住民の多くの証言が寄せられ地いるが、編集者のフィルターなしの「生の証言」にまとめて公表したことは、今になって非常によかったと思っている。それは佐々木(編)の「想起のフィールド:現在のなかの過去」のようなすばらしい研究の材料としても、証言集が活用されているからである。95年9月1日に出版したが、それ以後もほぼ同じくらいの証言や純粋に科学的な観察結果も含めて寄せられている。そのようなものから、また、その情報に刺激されて、新しく取り組み始めた初歩的な知見を報告した。走り出して2年であるが、学際的な分野の初修者には専門分野の用語や常識の欠如が何よりもつらい。ぜひ皆様の専門分野からのアドバイスをお願いしたい。

参考文献

力武常次:地震前兆現象(東大出版会、1986)

池谷元伺:地震に伴う電磁気現象と動物の異常行動
             (岩波科学、1996)
H.トリヴッチ(渡辺正訳):動物は地震予知する
             (朝日選書1985)
弘原海清:前兆証言1519!(東京出版、1995)

論文・成果