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地震危険予知プロジェクト
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 日本行動計量学会
 第27回大会特別講演
 (平成11年9月20日 倉敷市民会館)

 

「宏観異常」による地震危険予知の可能性

弘原海 清 *

*岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科
E-mail: wadatumi@big.ous.ac.jp

(1)兵庫県南部地震の宏観異常
 日本・中国・ヨーロッパの歴史上の大地震の直前には、必ずといってよいほど、自然や動物に日頃経験しない異常が数多く観察されている。最も身近で記憶に新しい兵庫県南部地震を取り上げる。大震災直後の2月10日に、マスコミを通じて「地震の前兆的異常を体験された方は大阪市大の学術調査団まで情報提供を」とお願いし、3月末までに1519通の前兆証言が住民の方から広く寄せられた。この証言を集計した結果、地震予知の手がかりが見えてきた。分類作業でこの1519通の証言は10種のカテゴリーに区分された。自然現象では「空、大気、大地」、動物では「人間、獣類、鳥類、魚類、は虫類、昆虫など」、植物はひとまとめ、その他は電磁気異常「テレビ・ラジオなどの電波障害、画像障害、リモコン故障など」が主な内容である。具体的な内容と分析結果は「前兆証言1519!」弘原海(1995,9)で公表した。

(2)宏観異常・計測データの総合判断による地震予知(中国の例)
 この阪神大震災の宏観異常証言については、それらが地震後に集めたもので、科学的な検証が無いとする批判が多い。日本では純粋に地震前に収集されたものは存在しない。しかし、中国の海城(ハイチョン)地震(1975.2.4)では前兆宏観異常が切り札となって地震直前予知に成功した。ここでは周恩来元首相の「予知・防災」のスローガンのもと科学者から民衆まで10万人以上が動員され、中国3000年の地震記録が詳細に調べられ、多くの地震資料から住民が体験した地震の前兆異常(宏観異常現象;honngguan yichang)をまとめ、子供から大人まで事前教育を徹底した。日本では、このような中国式の大衆動員的な予知活動は不可能であり、また「予知と予報」の間にも越えがたい大きな壁が存在する。
神戸大学の大内徹氏が1998.10から40日間、中国における地震予知の現状調査を行った。その報告によれば、中国の過去数十年の地震活動、地下水動向、地殻変動など被害地震の震災調査に基づき異常現象30項目を抽出、このデータのパターン解析で地震発生予測が行われている。ここでは異常の発現順番の関係が重視され、コンパクトなシステムソフトが作られ、1995年から試用されている。北京の中国地震局は、担当地域で1997の年初頭に9個のM=5以上の地震危険区域を指摘し、その年末までに5個の地震が実際に発生した。翌年、華北の予想地域に張北-尚義地震(1998年1月10日、M=6.2、倒壊家屋13.6万棟、死者50人)が発生したが被害を最小限にくい止めた。中国で地震活動の最も活発な雲南省でも、1995年の孟連地震(M=7.3、死者11人)では、直前予知に成功し避難命令が出され、学校の閉鎖、危険家屋の住民避難等の対応処置がとられている。

(3)日本での地震予知戦略
 現在の日本では、1997年6月19日、文部省の測地審議会は、日本唯一、観測網の最も整備されている東海地震を含め大規模地震の発生時期や場所などの予知は困難との結論を出した。この20数年間、実際の地震で一度も試みた経験が無いにもかかわらず、直前予知は不可能とする決定を国が行った。この流れの逆風の中でも、地電流によるギリシャVAN法の適応や電磁波や帯電エアロゾルによる方法など、地震直前予知を実現しようとする日本人のグループが幾つかある。また、将来的には人工衛星による電離層異常から地震予知に迫る研究も計画されている。このような電磁気現象による地震直前予知は自動機器計測が可能で、自然環境変化を常時モニターできる。ひょっとすると、あの阪神大震災時の自然異常が事前に測定され、これらをストレス刺激として引き起こされる動物たちの前兆異常が認識され、地震直前予知が可能になるかもしれない。物理刺激と動物異常の関係は実験的なアプローチが可能で、現在僅かな人達が研究に取り組み始めた。阪神大震災で異常反応を示した動物の血液採集、DNA測定、地震予知クローン動物の生産などが考えられている。

(4)中国と日本の地震予知体制
 大内徹氏の報告によれば、中国では特別な観測と言うより、ごく当然の観測をきちんと丹念に続けていると言った姿勢がとられている。これら地震予知体制は北京の中国地震局分析預報が全国的な中心となっているが、各地方自治体やその下部組織もそれぞれ独自な形で予知・予報の観測・研究を行っている。異常が確認された場合、これらすべての組織がそれぞれの情報を交換しあっており、情報通達の仕組み、警報にもとづく判断、適当な対応策を準備して、学校閉鎖、危険家屋の住民避難など処置がとられている。中国の地震予知は数ヶ月前といった中・短期予報はかなりうまく機能しているが、数日から数時間の直前予報はかなりの困難さを抱えているようである。
現在の日本では、地震予知に対して不可能論等の議論が先行し、全く混迷状態にあると言って良い。結局、基礎的研究を理念としてすすめ、10年〜20年先で役立つ研究を文部省の科学研究費方式で続けることになってきた。中国は国家地震局を中心に「予知・防災」のスローガンのもとに30年近く活動をつづけてきた伝統があり、さらに1970年代における専門家集団と民衆動員による多次元組織から、1980年〜1990年代には国家地震局と安定的な地方自治体・その下部組織による独自な予知活動を尊重しながら、観測情報は徹底して共有化する体制が全国的に確立している。
 日本の基礎研究方式では大学や国公立の研究機関の研究者が中心となって取り組むことになる。研究成果の期待されるテーマについて研究者個人の選択に基づいて進められる。科学的な裏付けを求めて練り上げられる。これらが研究会を通じて徹底的に議論され、論文集としてまとめ上げられる。この研究課程で、時として得られる地震予知に関するような異常情報は大部分は研究者間をEメールの世界で流通し、相互で検証している段階である。予知精度が100%にならない限り、しかも国が認めない限り研究者が予知情報を一般に流すことは困難である。100%の予知精度は多分永久に不可能であろうから 、予知と予報の間に実に大きな壁が存在することになる。

(5)宏観異常情報の収集
 一方、宏観異常は日本中の不特定多数の市民がセンサーであり、その情報は発生時点から本来市民のもので、公開問題は解決済みである。しかし、それらは著しく分散して存在し、十分な学習なしには信頼度も多種多様である。この市民情報を如何にして持ち寄り、危険情報を抽出評価して、有効情報として市民にフィードバックし、市民が自己責任で危険回避の行動がとれるようにまとめるかが問われている。このプロセスで研究者グループはコーディネータとして市民の情報活動を援助することが求められている。
 さらに本質的な問題は、市民がボランティアとして宏観異常観察モニターとなり、周りの環境異変に絶えず注意し、地震の前兆ではないかを判断し、情報収集サイトに送信を続けるような活動は、市民を大変なストレス状態に置くことになる。しかも、各住民の居住地に宏観異常が出現する確率は十数年に一度(M6以上)程度である。経験・知識・緊張の保持・持続が日常生活の中で大変困難である。そして忘れた頃にやってくる。昔から数多く観察され、記録されている宏観異常情報はいざとなると役に立たず、後で思い出せばいろいろ変なことが、となる。そして、そんな情報は「あと予知だ、科学的な根拠なし」として学者・識者の批判を浴びる。この繰り返しではあるが、それでも日本の被害地震の約50個に宏観異常が記録されている。

(6)地震危険予知とその実践
 地震予知には地震データ、地殻変動データ、地下水・地中ガスなどの地球化学データ、などが基礎データとして欠かせない。また、電磁気・地電流・帯電エアロゾルなどの異常データなども含まれる。「地震予知」では、これらの機器計測データによって正確に地震予知の3要素(いつ、どこで、どのサイズの地震)を予測することを指向している。しかし、日本では不可能論が優勢である。また、予知できたとして、その対応法はもっぱら政治側の問題と考えられている。
 予知を可能にするため、3要素にある幅を持たせた確率予報の導入も考えられるが、現実には地震予知の影響の大きさから実現していない、いや、許さない。さらに曖昧性を拡げた地震情報を国や研究者が流すことはさらに困難である。にもかかわらず活断層の活動周期説にもとづいて、直下型地震があれば将来的に1000年ぐらいは地震が起こらない!。この町を通る活断層は2000年以上は動いていないので何時地震が起こっても不思議でない、と研究者は平気で言う。
 そこで国からの厳密な定義の地震予報、「○○○を根拠にすれば、北緯○、東経○(○県○町)、○月○日、○時間前後、規模M=○の地震が起こります」があるかどうかは将来に期待して一方的に待つより仕方がない。私は次善の策として、おおよその場所、時間、規模がある経験則に基づいて推定されるなら、この段階で市民がこの情報を活用して別の展開がなし得ると考えている。すなわち、市民による宏観異常の観察と市民が確認した異常情報に基づいた、自己責任による対応である。地震の起こる危険性の予知・予報「地震危険予知」はおおよその時間・場所・規模の情報であることを前提に、その地域の市民が比較的短期間(30日以内)、宏観異常の観察に参加し、危険を予知し、その危険を回避するまでのプロセスをトータルに含む方式である。
 この特徴は、限定された地域と期間での宏観異常観察は比較的参加しやすい。そして情報の信頼性評価は「特定地域に多種多様な異常が同時多発する状況(阪神大震災の例)」で判断し、自分の観察と認識(自己データ)に基づいて、自己責任で避難や各種防災行動をとる。一方的に与えられた地震情報で対応するのではない。もちろん、まったく宏観異常を信じない人をも含めて各人の宏観異常の認識や信頼感の差により行動様式は多様になるであろう。岡山理科大学地震危険予知プロジェクト(PISCO: Precursory Quake-Information System by Citizen`s Obserbasion)のホームページhttp://www.pisco.ous.ac.jp/ は、このような理念のもとに3年前から開発が進められ、多くの訪問者(日平均300人)がすでにアクセスしている。

参考文献
(1)阪神大震災「前兆証言1519!」弘原海清、東京出版、1995,9
(2)同著「普及版」1996.6   (1):(2)共に絶版
(3)大地震の前兆現象. 弘原海清、河出書房新社(KAWADE夢新書)、1998,11
(4)中国の地震予知の現状、大内徹(神戸大学都市安全研究センター)、1999,7

 

論文・成果