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 日本オペレーションズ・リサーチ学会
 平成13年度秋季研究発表会特別講演
 (平成13年9月12日 岡山理科大学)

大気イオン濃度の異常変化と地震危険予知
−鳥取県西部地震(M7.3)と芸予地震(M6.7)を例として−

弘原海 清 *

A Colored Risk Diagram by Abnormal Atmospheric Ion Density and Estimated Magnitudes of Forthcoming Earthquakes -The Latest Instances of the Western Tottori Prefecture Earthquake (M7.3) and the Geiyo Earthquake (M6.7) -

Kiyoshi WADATSUMI *

*岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科
*Department of Biosphere-Geosphere System Science, Faculty of Informatics, Okayama University of Science, 1-1 Ridai-cho, Okayama 700-0005, Japan.
E-mail: wadatumi@big.ous.ac.jp

キーワード:大気イオン異常変化、地震危険予知、鳥取県西部地震、芸予地震、ぴすこ
Key words : Abnormal density of atmospheric ion, earthquake risk classification, Western Tottori Earthquake, Geiyo    Earthquake, e-PISCO

1. まえがき
 1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震の前兆異常の証言に、神戸電波(株)の大気イオン測定器が異常値を示したという報告がある(薩谷.1996)。また、地震直前に地下から帯電エアロゾルが異常発生し動物や自然現象に宏観異常(こうかんいじょう)が発生することを H.トリブッチ(1985)は指摘している。本研究室はこれらに注目し、地震と帯電エアロゾルとの関連性を明らかにするため、1997年7月から現在まで岡山理科大学21号館6階研究室で大気イオン測定器(KSI-3500;神戸電波(株)製)を使って24時間連続を行ってきた。現在、地震危険予知システムe-PISCOは、この計測データを時系列グラフでWebサイト上に地震データと重ねて毎日公開し続けてきた。
 この4年間継続してきた岡山理科大学での単独観測による「試行実験」は、本年6月で一応まとめにはいり、次の発展的な活動として1年の準備期間の後、さらなる4年間(2002〜2006)に向けて、全国に約200点(年間約50点)を目標にした多点観測による「実用化実験」を準備中である。この夢のような作業計画の実現性については全面更新e-PISCO新版(V6.0)で明らかにする予定である。これまでの試行実験で解明された幾つかの知識について報告する。

2.試行実験で解明された知識
 本研究室で測定している帯電エアロゾル(大気イオン)は、プラス・マイナス電荷の微粒子で、サイズの上限が0.02μmの大・中・小の3クラス、合計6種類の大気イオンの濃度(個数/cc)を24時間、365日連続して自動計測している。
(1) 自然ノイズ
 連続測定の結果、あらゆる種類の大気イオンが地震と関係なく日常的に発生している。その内、プラス大・中・小イオン濃度の全体は通常500〜1500(個/cc)であが、その内の地震前兆に特有なプラス大イオンの日常ノイズは岡山理大キャンパスでは300〜1000(個/cc)程度である。この自然ノイズの平常値は季節、自然環境、都市環境、地下岩盤状態などで変化する可能性がある。
(2)風雨ノイズ(レナード効果)
 風雨など気象変化による大気イオン濃度の変化は主としてマイナスイオン、さらに小・中大イオンの割合に大きく影響があらわれる。これは雨滴の細粒化に伴うレナード効果が原因で地震前兆とは関係がないと考えられる。即ち、マイナスイオン濃度は地震予知には使用出来ない。
(3)雷ノイズ
 頭上に雷鳴が響く最中やその直前の大気イオン濃度変化は、プラス・マイナスの小・中イオン濃度に大きく影響する。しかし,プラス大イオン濃度には大きく影響しないので雷ノイズに苦労する他の電磁波地震予知に比較して有利である。

2.2 単独観測点の大気イオン濃度変化の特徴
(1)観測点から半径300kmを越えて外側で発生した規模の大きい地震に対しても大気イオン濃度変化は観察されない。深度350kmの若狭湾地震M5.7(2000.4)にも全く反応しないので、距離は三次元的に考える必要があろう。基本的に異常震域地震(震度が震央で最小)は揺れがないので予知する必要もない。
(2)半径300km以内で発生した同一規模(M)の地震では、大気イオン濃度は震源距離に反比例する(震源が近い地震ほど、逆にイオン濃度は高くなる)。
(3)震源距離が同じような地震では、規模(M)が大きいほど大気イオン濃度は高い。
(4)大気イオン濃度変化は出現時に最も高くなることが多い。それから地震発生までの時間(先行時間)は指数関数の地震マグニチュード(M)に比例して指数関数的に長くなるように見える。鳥取県西部地震(M7.3)で100日、芸予地震(M6.7)で7日である。多発する小地震(M4程度)では1〜3日である。
(5)直前予知が不可能と言われる直下型地震(I型;鳥取県西部地震など)で逆に最も明瞭な濃度変化をしめす。その意味で最も危険な直下型地震の直前予知に大変有効であろう。
(6)一方、深度100km程度以内の沈込みスラブ(プレート)内地震(II型;芸予地震など)の濃度変化は直下型地震に比較してM値で1ランク程度低く求まる。海中の地震も同様である。プレート境界の海溝型地震(III型;南海地震などのM8級巨大地震)には経験が無いが、多分1〜2ランク程度の低減(M8→M7,M6)が考えられる。
(7)巨大地震の先行時間が長いことは、防災対応が十分に取れることを意味している。一方、先行時間が長かった鳥取県西部地震(100日)では、経験も乏しかったこともあり、その期間のストレスに耐えることは至難の業であった。2000年7月11日に「緊急情報、M6.5の可能性」、7月17日に「緊急情報、鳥取県西部のM4.3で震源地の可能性」を発信してから、おびただしい賛否両論的メールが錯綜する。なかでも評論家的な「パニック論・責任論」のメール攻撃は将来のケースでも続くと思われる。

3. 実用化実験で用いる危険分類表
3.1 試行実験から実用化実験へ

(1) 週間単位の時系列表示を従来通りの基準で使用する。
(2) 新規に着色対数目盛りで月、年間隔の時系列表示を追加使用する。月間隔は芸予地震などの小−中地震用で、年間隔は鳥取県西部地震など先行時間の長いM7以上の大地震、巨大地震用として用いる。実際には、次々に時間間隔を変えて使うので混乱を与えやすい。表現上の充分な配慮が必要である。
(3) プラス大イオンのみを表示し、プラス小・中イオンやマイナスイオンの表示は行わない。
(4) 対数目盛3.1以下、または1250(個/cc)以下は、自然ノイズ領域に相当すると考え、これも表示しない。
(5-1)プラス大イオン濃度の2000個/cc以下、対数目盛(3.1〜3.3)を微小地震帯(M3前後)とし、キミドリ(危険度で安全)で表示する。
(5-2)大イオン濃度の3000個/cc以下、対数目盛(3.3〜3.5)を小地震(M4前後)に対応させ、イエロー(危険度で準安全)で表示する。
(5-3)大イオン濃度の5000個/cc以下、対数目盛(3.5〜3.7)を中地震(M5前後)に対応させ、オレンジ(危険度で要注意)で表示する。
(5-4)大イオン濃度の8000個/cc以下、対数目盛(3.7〜3.9)を中強地震(M6前後)に対応させ、ピンク(危険度で要警戒)で表示する。
(5-5)大イオン濃度の13000個/cc以下、対数目盛(3.9〜4.1)を大地震(M7前後)に対応させ、ウスアカ(危険度で厳重警戒)で表示する。
(5-6)大イオン濃度の20000個/cc以下、対数目盛(4.1〜4.3)を巨大地震(M8前後)に対応させ、コイアカ(危険度で厳重警戒)に表示する。
この図表をW・Hダイアグラム(Wadatsumi-Haraguchi,2001)と呼ぶことにする。この図は4年間の試行実験期間のデータから経験的にまとめたもので、今後とも地震データごとに更新される。

3.2 試行期間中の大〜中地震の予知例
(1) 2000年1月以降の中規模地震予知
 2000年1月以降、2001年5月末(現在)までの17ヶ月間に、プラス大イオン濃度が3000個を越えて緊急情報をe-PISCO上に発信したケースは8回である。岡山を中心とした半径300km以内で引き続きM4以上の対応地震が発生したのが8回であり、地震予知基準(何時・何処・規模)を満たすものでは無いが、地震前に大気イオンに異常が現れることはほぼ間違いないと考えている。
 一方、半径300km以内で起こったM5以上の地震で、前兆的な大イオン濃度の異常が観察されなかった地震がこの期間に2個ある。一つは2000年4月後半の若狭湾地震で震源深度350kmであり、これは300kmの範囲を超える地震と考える。もう一つ、2000年6月はじめの石川県西方沖地震(M6.1)で、2800個/ccの異常変化が直前に認められるが3000個の基準を満たさないので緊急情報を出さなかった。この地震の震源位置が日本海(海中)で震源距離も限界ぎりぎりでり、帯電エアロゾル減衰の強い条件であった。

(2) 2000年1月以降の大規模、中規模地震
(2-1)鳥取県西部地震
(2-2)芸予地震
の詳細(OHP)を述べる。

4. まとめと展望
 1997年7月より2001年6月までの4年間、岡山理科大e-PISCOでは「単独観測点による試行実験」を行い、多くの有用なデータ情報が入手できた。この試行実験で明らかにされた地震予知知識について述べてきた(省略)。今後の展望として
(1) 今後、1年間の準備期間を経て発展的に次なる4年間(2002.7〜2005.6)の「多点観測の実用化実験」を行うよう準備中である。その際、全国に年平均50点、最終で200点(県当たり4点)を目標に進める。
(2) 現在、岡山理科大では卒業研究として、400万円の大気イオン計測器を自作中である。手持ち予算は10万円。エアコンのインバータモーターを改造、ピコ(PA)アンメータ(市販で50万)を特殊なコンデーサーIC(一定電圧でビット信号付き放電)を使って2〜3万円で作成中。ケースはGatewayフルタワーPCの廃品利用、GPS(Sony)とモバイル・インターネット付き、ポータブル型と言った仕様のシステムである。心臓部のイオン分離計測部は特許申請中。
(3) 全ての制作過程はWeb上で公開し、企業なども同時並行して作成がはじめられるようにし、アウトソーシング方式で、新年度(2002.4)には30万円程度で入手可能にしたい。開発はコンペ方式で、早く、安く、良質な製品を市民が選択できるようにする。品質はPISCO所有標準システムと比較しての評価する。緊急時には携帯し幾つかの臨時観測サイトが準備できよう。
(4) 一般計測者は自己負担で購入して参加する。データの処理はPISCOのWebサイトで一括して行ない、参加者には電気代と通信費以外は一切負担をかけない。この多点観測点からのデータを用いてイオン濃度分布の等高線を描き、目玉を震源地候補として、周辺の微小地震、活断層などを従来どおり精密検討する。一日12回程度のサイクルで24時間連続に情報を自動更新できることが望ましいが、初期にはまず1日1回程度であろう。この過程も全て公開で行う。この2001.7から行う大阪市大植物園2号サイトと理科大1号サイト間でのネットワーク運用の経験が基本になる。地震多発時代に突入した現在、情報リスクを恐れていて逃げてはならない。
(5) この成功のための条件として、日本の科学技術を総動員したシステム開発チーム(Web上での仮想組織)、および観測点選定チーム(Web上の地質・土木仮想チーム)、観測点ごとの計測参加者の公募を行う。2005までの期限付き活動で、この期間は契約によって行動に制約が生じよう。国民から見て十分成果有りと認められた場合には、第三段階として、海外開発途上の地震多発國へ技術援助(システムと人材提供など)を行うべきである。この段階から、日本および各種国際機関、民間諸団体と連携しなければならない。それまでは国民が総力をあげて地震予知+防災(地震危険予知)を市民の力で実現しよう。

文 献

H.Tributsch(渡辺正訳)動物は地震予知する、朝日選書1983,231p
薩谷泰資、環境空間における大気イオン分布密度の計測、テレビジョン学会技術報告、20,31-36,1996
安岡由美・志野木正樹、兵庫県南部地震前後における大気中のラドン濃度の変化、Isotope News,4,74-76,1996
弘原海清・米沢剛、大気イオン濃度の異常変化は地震前兆か、地球惑星合同学会予稿集p349,1998
弘原海清、鳥取県西部地震の直前90日前に何が置き何が問題か、ACADEMIA,65,16-24,全国日本学士会、2000
地震危険予知情報ホームページe-PISCO  URL; http://www.pisco.ous.ac.jp/

 

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