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地震危険予知プロジェクト
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環境大気中の帯電微粒子(エアロゾル)濃度の連続観測
−大気イオンと自然異常(地震)との関係−

地球環境科学研究室 S97SM16
米 澤   剛


1. 緒言
兵庫県南部地震の前兆現象としてラドンの濃度変化が知られている(安岡ら、1996)。従来からもラドンは地震前兆として多くの事例と共に有力視されている(Wakita et al.,1980)。しかし、特定観測点の設置が難しく、測定エリアの拡大が困難であった。一方、広域から自然に放出されるラドンとその壊変核種の放射線で電離した大気イオンは環境大気中を自由に拡散し、その濃度変化を平均的に計測することができる。この大気イオンから発生する帯電微粒子(エアロゾル)は自動観測が容易である。兵庫県南部地震でもこの種の帯電エアロゾルの前兆変化が神戸市で観測されていた(薩谷、1996)。
今回測定している帯電エアロゾルは、大気中のイオンとエアロゾルの複合体である。本研究では、正、負電荷のエアロゾル濃度(個数/cc)を、大、中、小のサイズごとに分けて365日の常時観測を行った。この野外で連続観測した帯電エアロゾル濃度変化とその後に発生した地震の震源、規模を比較しながら、その地震発生までの先行時間、規模、発生場所等を明確にし、その関係の検証を試みた。また、帯電エアロゾル濃度は地震以外に気象現象によっても影響をうけることがわかった。

2. 大気中のイオン
大気中では、地殻中及び大気中の放射性核種から出る放射線(α線、β線、γ線、電磁波)の電離作用によってイオンが生成される。また、壊変して生まれた娘核種も電荷を持った金属イオンになる。大気圏下層での大気イオンはこの両者の混合したものが大部分である。一方、上空の成層圏以上では、主として宇宙からの放射線により気体分子の電離が著しく、幾層もの電離層が形成される。両者の垂直分布を図1に示す。今回取り上げる大気イオンとは前者であり、小イオンと大イオンである。小イオンは10〜30個の分子がクーロン力で結びついてクラスターを形成しているものである。
後に述べるように、大イオンは電気移動度が大きい小イオンが大きなエアロゾル粒子に付着し、帯電したものである。


2-1 地殻中の放射性核種
 地殻中の主な放射性核種はラジウム(226Ra)であり、比較的どの土壌、岩石中にも含まれている。そのため、そこで生成される娘核種ラドン(222Rn)は、地下水に溶解したり、直接気体として地表に到達し、大気中に気体として放出される。その放出量は、土壌地殻中に含まれる親核種の量、地殻構造(断層の有無)によって異なる。

2-2 大気中の放射性核種
大気中の主な放射性核種はラドン(222Rn)である。ラドンは天然に存在する唯一の放射性の希ガスである。ウラン(238U)系列の核種で、直接の親核種ラジウムの壊変によって生成される。ラドン自身も更に壊変し、4種類の娘核種を生成する(図2)。

図2 ラドンの放射壊変と半減期


2-3 大気中の放射性核種の分布
気体であるラドン、ラドンからα、β崩壊して壊変した金属原子である娘核種、壊変時の放射線により電離した大気イオンは、それぞれ異なった運動様式をとりながらも全体として大気中を浮遊拡散し、大気中にほぼ一様の濃度で分散される。

3. 大気中の帯電エアロゾル

3-1 帯電エアロゾル
 大気中には大気汚染粒子として大気エアロゾルが浮遊している。大気エアロゾルは粒子径によって図3に示すように多様である。大気中の電離作用によって生成された小イオンクラスターは、異符号のイオンと再結合して電荷を失ったり、周囲に浮遊する大気エアロゾルを核としてその表面に付着する。この付着したイオンの電荷によってエアロゾルは、正または負に帯電する。これを総称して帯電エアロゾルとよぶ。また、大気イオンは化学的な意味での単体イオン分子ではなく、小イオンクラスターとして極微細エアロゾル領域に含まれることが多い。今回の帯電エアロゾルは、正確にはエイトケン粒子である。


3-2 測定方法
今回測定している帯電微粒子(エアロゾル)は、大気中の小イオンクラスターとエイトケン粒子の複合体である。本研究で使用している大気イオン測定器は神戸電波(株)製のKSI-3500である。本計測器の計測特性は、粒径0.02μm以下の正、負電荷のエアロゾルを、大、中、小サイズごとの6種類に分類している。この中で小サイズは小イオンクラスターの割合が大きいと考えられる。1セットを約30分サイクルで24時間連続的にデジタル出力し、365日の常時観測を行っている。種類別の測定範囲を表1に示す。

4. 帯電エアロゾル濃度変化と地震との関係
この野外で連続観測した帯電エアロゾル濃度変化とその後に発生した地震の震源、規模を比較しながら、その地震発生の先行時間、規模、発生場所等を明確にし、その関係の検証を試みた。ここでは1998年3月4日に起きた兵庫県南東部地震(M4.2、D10km)と3月6日の愛媛県東予地方地震(M3.8、D10km)の例をあげる(図4)。3月の初めより正常状態が続くが、3月2日14時から濃度変化に異常が観測され、44時間後に兵庫県南東部地震(岡山から137km)が起こった。またこの期間、大粒子だけの比率も80%を超え、平常値とは異なる値を示した。3月6日の愛媛県東予地方地震でも大粒子の比率は前者と同様に高い値が観測されたが、3月5日の雨の影響で前者ほど明確な大粒子の比率変化は観測されなかった。



5. 帯電エアロゾル濃度変化とノイズ

また検証の結果、環境大気中では、降雨、大雨、台風、雷などの気象変化に伴って帯電エアロゾルが発生し、それらの濃度変化も合併して計測されることが分かった。図5は1998年9月21日から23日の台風7号と8号に伴う強雨・強風、24日から25日にかけての秋雨前線による大雨時の濃度変化である。また、雷時には顕著なパルス的異常値が観測され、大、中、小粒子それぞれの比率では中粒子の比率に明確な変化が確認された。ここでは、1998年8月6日から10日にかけて発生した雷の濃度変化をあげる(図6)。


6. まとめ
環境大気中の帯電エアロゾル濃度変化から地震前兆と考えられる変化を識別し、常時観測値からそれら相互を識別分離する方法を確立する。これら識別分離方法が確立できれば、自動的な機器計測で、地震前兆的な大気中のエアロゾル変化を認識できる。このようなデータ解明方法を追求しながら、地震予知の精度をさらに高めることが今後の課題である。


7. 参考文献
1) 北川 信一郎 編 : 大気電気学, 東海大学出版 (1996)
2) 薩谷泰資 : 環境空間における大気イオン分布密度の計測, テレビジョン学会技術報告, vol.20, No50, 31-36 (1996)
3) 安岡 由美, 志野木 正樹 : 兵庫県南部地震の前後における大気中のラドン濃度の変動, Isotope News, 4, 74〜76 (1996)
4) Wakita, H., et al.: Radon anomaly : A possible precursor of the 1978 Izu Oshima-kinkai earthquake, Science, 207, 882〜883 (1980)
5) 弘原海 清 : 大地震の前兆現象, 河出書房新社 (1998)


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