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地震危険予知プロジェクト
Precursory quake-Information System by Citizen's Observation on Web 
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 地質学論集 第49号 159-166ページ,1998年3月
 日本地質学会
 第104年総会・討論会 シンポジウム「21世紀を担う地質学」
 (平成11年4月4日 北とぴあ<東京・北区>)

宏観異常による地震危険予知
−情報地質学の歩みと展望に照らして−*

Precursory quake-information system based on citizen's observation of natural phenomena : a geoinformatics viewpoint*

弘原海 清*

Kiyoshi Wadatsumi**

1997年8月1日受付
1997年12月20日受理

* 日本地質学会第104年総会・討論会(1997年4月4日,東京)にて講演.
**岡山理科大学 総合情報学部生物地球システム学科環境地震学研究室.
Laboratory for Environmental Pre-quake Information, Department of Biosphere-Geosphere System Science, Faculty of Informatics, Okayama Science University, 1-1,Ridaichou Okayama 700-0005, Japan

E-mail : wadatumi@big.ous.ac.jp

Abstract

Macro-anomalies preceding the Hanshin earthquake(1995.1.17 ; M7.2) in Japan were collected from 1519 personal accounts by the Research Group on Precursory Earthquake Phenomena in conjunction with Osaka City University's Hanshin Earthquake Disaster Research Committee. These anomalies include anomalous animal behavior, strange detonating sounds and micro-earthquakes, unusual clouds and lighting in the sky, change in underground water and hot springs, and so on. Such phenomena can be sensed as natural warning signs from citizen's observations (Wadatsumi, 1995). Analysis of these data indicate that the spatio-temporal distributions of macro-anomalies coincide with the epicenter of the subsequent earthquake as a central point or zone of distribution and they begin to be observed about 30 days before the main shock. The maximum frequency of occurrences, however, occurs about 1 day prior to the main shock. If these macro-anomalies are able to be collected prior to an actual earthquake by means of a real-time internet database, the precursory quake-information system fromcitizen's observation (PISCO) may be applied to predict an earthquake event. The possibility of this assessment technique is evaluated and its potential for future earthquake hazard mitigation is discussed from a geoinformatics view-point.

Key words : Hanshin earthquake, macro-anomalies, anomalous animal behavior, geoinformatics, earthquake hazard mitigation, assessment technique, and PISCO.

は じ め に

 情報地質学は情報科学と地質学にまたがる複合領域の学問である.今日の情報化の波は高性能な個人情報処理システム,超高密度でマルチな記録媒体,インターネットに代表される情報通信網,多種多様な応用ソフトと共有データベースの整備などを加速し、今日の情報化社会の強力な基盤を形成しつつある.
 この急速な情報化社会のうねりの中で,情報地質学はこの情報基盤を積極的に取り入れながら「明日の地質学」をめざして新たな道を開拓してきた.1979年4月に発足した「情報地質研究会」や1990年4月に新しく設立された「日本情報地質学会」もその流れのひとつである.この10数年の活動を通じて認識出来たことは,情報地質学は他の情報科学分野と共通する部分も多いが,同時に他の分野に見られない特殊性も数多く内在する(升本ほか,1997).
 日本地質学会の専門部会設立記念シンポジウム「21世紀を担う地質学」の中で,情報地質学の歩みと展望に照らして,著者は21世紀の情報地質学の基本的な課題を考え,そこで提示した課題に立って現在取り組んでいる研究課題「宏観異常による地震危険予知」の意味づけをおこなう.

情報地質学の基本課題

 21世紀での情報地質学の基本的な課題として,著者は次の三つを取り上げる.第一の課題は,伝統的な地質学との関係とその役割の問題,第二の課題は,21世紀の教育研究機関が急激に進展する情報通信技術をどのように活用するか,第三の課題は,教育研究機関の地域解放と地域連携を確立する問題である.
1. 伝統的な地質学と情報地質学
 歴史科学としての地質学は地球自然を観察することによって始まった科学である.大規模で長時間の自然過程で形成された岩石や化石は,過去の自然営力に関する記録であり,情報のファイルである.過去の自然営力の解読はこれら岩石や化石を精密に観察し,計測し,記載することより始められた.また,現在の諸営力に学び,その知識を基に形成過程を推考するという現在科学的な方法も活用される.このための知識や法則などは地質学の発達過程を通じて次第に明らかになった.
 このような純粋地質学の知識に加えて,物理化学的な側面での地球の理解は急速に進展した.特に,実験岩石学は地下深部での鉱物・岩石の高い温度・圧力条件での相平衡関係を明らかにし,岩石成因論の基礎的データを提供した.同位体を利用した岩石・鉱物年代測定は地殻の発達過程を研究する上で強力な情報を提供している.必然的に現在の地球科学は数多くの専門分野に分化し,それぞれの視点で新しい事実を解明し,特徴ある46億年の地球史を描いている.
 21世紀を目前にして,Charles Lyell(1797〜1875)以来の「現在は過去の鍵である」の歴史指向パラダイムに対して,その逆の「現在は未来の鍵である」とする未来指向パラダイムが地球科学のもう一つ重要な流として登場する.将来の地球に対する人類の強い要請に対して,地質学は科学的な根拠に基づいて積極的に発言することが求められている.
 この21世紀の情報地質学は,現在・過去の地球に関するおびただしい知識が収集・維持管理し,学際的な活用のために標準化する必要がある.これら地質学データ(事実的知識)および推論用の論理的モデル(推論的知識)の活用は,未来予測のための演繹的なアプローチや推論モデルによる試行錯誤,さらには自然での検証などで効率的に活用されるであろう.
 科学史的な一つの例を示す.Isaac Newton(1642〜1727)は「リンゴが木から落ちる」のを見て万有引力の法則を発見したと言われている.この万有引力は数式モデルとして定式化され,大は宇宙の運動から小は日常的な物体の運動まで,実に様々な物体の運動を定量的に記述し,その位置を予測する.
 一方,地質学の世界でWilliam Smith(1769〜1839)が1816年頃までに明らかにした「地層累重の法則」と「交差切りの法則」は,目で見える地層構造から地層の時間順序を明かにし,これら地質体の形成史を編年するのに画期的な役割を発揮する.この意味でこれらの法則は地質学にとっては万有引力にも匹敵する基本的な法則である.ただ違う点は,万有引力が定式化されているに対して,後者はこれまで定式化が困難で,具体的な活用場面が明確にされてこなかった.
 この課題に対して,論理地質学(塩野・弘原海,1988)が情報地質学の分野に導入され,その重要性が認識されると,累重法則はその論理構造が詳細に検討され,結果として,この法則の定式化が実現した(塩野・弘原海,1991;1992).この定式化された法則はコンピュータ処理プログラム言語(PrologやFortranなど)を使って,操作アルゴリズムに表現された(坂本・塩野,1990,1992).このアルゴリズムを使って,地質図は野外データから論理的関係を満たしつつコンピュータ作図することが可能となった(Sakamoto et.al.,1993;Sakamoto,1994;升本ほか,1997).このように,200年以上さか上って地質学の基礎概念を論理的に解きほぐし,今日の最先端的な論理処理コンピュータ問題に結びつける,と言った課題は情報地質学独特のものである.このような地質学の推論的知識は軽重いろいろ存在する.これからの目標は,これらを次々に定式化して,一般の事実的知識と推論的知識を論理的に結びつけやすくして,両者を統合した新しい知識データベースを構築し,21世紀の社会の要望に応える新しい道を開くことである. 
2. 教育での情報通信技術の活用 
 第二の課題は,21世紀の教育現場での情報通信技術の活用問題を検討することである.インターネットの利用は教育研究機関のネットワーク化を急速に立ち上げる.このような国際的なインターネット利用の環境下で,教師やカリキュラムがどのように影響を受けるのか十分検討する必要である.
 今,世界中の地球科学関連の研究・教育・行政機関では,各自が生産したデータ・情報はインターネット・ホームページを通じて国際的に公開するといった習慣が身に付ついてきた.このような動向を受けて関連ホームページの数は各種専門領域にわたって爆発的に増大している.このよな情報環境は教師の役割を本質的に変えようとしている.学生の学習は試験勉強に代表される知識の暗記や再生から,新しい知識の生産や問題解決に取り組む人間育成に重点を移行する必要がある.
 たとえば,岡山理科大学2学年生向けの「情報地質学」の授業では,特定な教科書を使って学生を教える授業形式が成り立たなくなってきた.約100名の学生は各自が関心をもつテーマ(恐竜発掘・火星探査・地球温暖化・地域環境保全・イギリスの標準層序の野外巡検など)に従って20〜30のグループに分かれ,一人一台のインターネットPC端末から世界中の数1,000のホームページ・サイトをサーフィンしながら,自分たち独自のテキストを作り上げようとしている.ここでの教師の役割は単に教える人ではなく,学習を支援する立場へと大きく転換せざるをえない.21世紀,予想超えた情報通信技術の変革と国際化は,学校教育の様相は一変し,ひいては社会一般に大きな影響をもたらすに違いない.
3. 地域に開かれた教育研究機関の確立
 第三の課題は,地域との連携,地域に開かれた教育研究機関の確立の問題である.教育研究機関は特定の地域内にある,またその域外にあるとにかかわらず,地域というキーワードのなかで地域情報を活用しながら,地域と連体して問題を解決するというアプローチが求められる.21世紀の教育研究機関は,地域の国際化や広域化の時代に,世界的な地域ネットワークの中で,地域と「共に学ぶ」,地域と「共に生きる」という課題にどう取り組むかが問われており,これに答える必要がある.

地震予知と地震危険予知

1. 地震学的な地震予知 
 地震予知は,予知の3要素「いつ,どこで,どの程度」の地震が起こるか,これをはっきりさせようという目標を持つ.太平洋岸の巨大地震は,ほぼ同じ場所に,同じ規模で,同じような間隔で繰り返し起こることが知られている.また幾つかの地震は,地殻の歪みや地盤の沈降・収縮が地震前に観測されて注目されている.力武(1986)は,測地学的な前兆事例として,麻績地震(1967,M5.0)と伊豆大島近海地震(1978,M7.0)での水準点の変化,傾斜計による傾斜事例として山梨県東部地震(1983.8.8,M6.0)と岐阜県中部地震(1969,M6.6)を引用している.このような地震前兆的な異常が数日から数ヶ月前に起こることが古くから言われている.従来からのこのような地震前兆を期待して,1960年に「地震予知研究グループ」ができ,「地震予知−現状とその推進計画」(いわゆるブループリント)を1963年に発行した.この後,新潟地震,松代群発地震,十勝沖地震が引き続き起こったことより,1969年に「地震予知連絡会」が国土地理院に事務局を置いて発足する.この予知にかかわる官公庁は,文部省,建設省,運輸省,通産省,科学技術庁,郵政省などで,これら国の関係機関が協力して観測に当たることになる.
 主要な観測地域として,大都市が集中し,大きな被害地震が集中して起った,また近く起こりそうな地域を選定した.特に,東海地域と南関東地域は「観測強化地域」に指定された.また,将来地震の発生する可能性の高い地域として8地域が「特定観測地域」に選ばれた.特に前者では国の諸機関ががそれぞれ協力して,地震観測,地殻変動観測,地下水観測,地殻歪観測,検潮観測,海底地震観測,ラドン濃度測定などを集中して行ってきた.近年ではさらに広域をカバーするVLBI や人工衛星利用によるGIS測地測量,陸海での重力測定,電磁気的測定なども進められている.しかし,このような万全の観測態勢を引きながら兵庫県南部地震では何の警告も発せられなかった.これを境に国民の目が国の地震予知体制に批判的な目を向けるようになってきた.
 地震予知計画を策定してきた文部省の測地学審議会は,第7次までの地震予知活動の経過を内外の有識者を交えて評価した結果,「1997年6月27日に東海地震を含む大規模地震の発生を直前に予測して警報を出す予知の実用化は今日では困難」だとする地震火山部会の評価報告書を正式に了承した.このニュースは新聞,テレビなどで大々的に報道された.すなわち,地震予知学的な手法による地殻現象から地震発生の前兆を抽出し,地震予知を実用化するめどは現段階では立っていないと結論した.そして現在,第8次の計画が策定されようとしている.
2. 宏観異常による地震危険予知
宏観的な前兆異常
 著者の基本的な考え方は,岩盤の主破壊,すなわち地震に至る経過の中で,地震学で言う震源核に相当すると思われる震源域で先行的にマイクロクラックが発生し,自然環境に何らかの物理的,化学的な異変を起こす.それらのストレス刺激が環境に敏感な生物に異常行動を取らせる.この物理的,化学的な自然環境の前兆異変は,地電流,電磁波,帯電エアロゾル,ラドン,地下水,地熱などに現れると思われる.この自然環境の異常変化は,動物の反射刺激,五感のうちの味覚(舌),臭覚(鼻),触覚(皮膚)を主とし,視覚(目),聴覚(耳)の感覚的な部分で受容され,しかも個体ごとに異なった反応(外的・内的)を示す.地域住民は従来経験する以上の強い異変を自然や生物に見たとき,主に視覚(目)・聴覚(耳)で「宏観異常」を認識し,推論や思考を働かせて地震前兆と関連付け,危険性を言葉にして発信する.これを「宏観前兆異常」と呼ぶ(弘原海,1995,1997).
宏観異常による地震危険予知システム
 人間性を極力排除した客観性至上主義の20世紀科学にたいして,21世紀での地球大問題に取り組むためには,人間を中心においた人間のための科学が大切にされなければならない.たとえば,地震予知と予報の間には現在越えがたい高い壁が存在する.国民全体がセンサーである地震危険予知システムは,住民一人一人がセンサーであり,基本的に各自が情報を作り,各自が収集に協力し,その蓄積情報を自己判断に活用して行動する.その情報は基本的に公開的で,それゆえ自己責任の原則が成り立つ.
 著者が現在運用している地震危険予知システム(PISCO:Precursory Quake-Information System by Citizon's Obserbasion )(弘原海,1995;1997)は,リアルタイムに情報を受理する目的で24時間対応する対話型オンライン・データベースを内蔵したインターネットホームページ・サイトである.そのシステムの特徴は,日本全国の地域住民の参加・協力が得られれば,24時間365日,情報を受信・集計・処理して,その結果を時系列的な地理分布や頻度分布の図表にしてリアルタイムに表示する機能を整えつつある.これらの機能で,即時性と広域性が保て,宏観異常を送信した住民グループと危険情報を共有することができる.
地震空白情報などの活用
 このシステムは宏観異常のみを取り扱ってはいない.宏観異常による地震予知は兵庫県南部地震でも明らかなように,第1段階が約1月前,第2段階が1週間前,第3段階が24時間前(弘原海,1995)と世界の数十の被害地震とほぼ同じ傾向を持ち(Tributsch;渡辺(訳),1985;弘原海,1997),直前的な危険予知情報といえる.
 一方,地震学的な前兆情報として地震空白域(第1種地震空白域)がある.過去数十年の震源データの分布と地質構造から,これまでの大地震の震源域から取り残された,または,将来の震源域となる可能性が考えられる地域は,震源分布が空白になることがあるという.このような地域を石川(1990,1994)は地震空白域と呼んでいる.この空白域情報の信頼性は,地震学者の間でもいろいろ意見が分かれるようであるが,著者が阪神大震災とその後の地震で実際に経験した結果,石川が指摘した地震空白域内で(石川,1995a,b),兵庫県南部地震(1995.1.17,M7.2),新潟県北部地震(1995.4.1,M5.5),山口県北部地震(1997.6.25,M6.1)など,多くの地震が連続して発生していて,十分考慮に足る情報と考えている.さらに,この地震空白域はほぼ10数年以内の短中期前兆情報に相当すると考えている.著者はこの情報は宏観異常による地震危険予知システムの下敷きとして地図データベースに埋め込んでいる.
 また,地質学的な活断層や活構造についても,100年以内の中長期前兆情報として活用することを考えている.上記の地震学的,地質学的な情報は地震発生場所と規模の予測に有効であると言われている.問題は時間,特に一週間以内の地震発生の直前予知に問題がある.地震危険予知システムでは,地震空白域や要注意活断層を同一の地図データベースに数量化して保存し,直前予知の主体をなす宏観異常と同じ地図上で重ね合わせ,相互に重み付けを変えながら,地震発生の可能性,危険性を評価する方式を取っていく予定である(弘原海,1997).

日本被害地震の宏観異常

 ここでは日本の被害地震の宏観異常について学ぶ.日本の被害地震のうち,地震前兆として宏観異常が記録されている主な地震について,東京大学名誉教授,力武常次の長年にわたる詳細な研究成果を中心にまとめる.被害地震を便宜的にプレート内の直下型地震とプレート境界の海洋型地震に分ける.力武(1986,1989)およびRikitake(1993,1994)は,大きな被害地震(安政東海地震(1854,M8.4),濃尾地震(1891,M8.0),関東地震(1923,M7.9),東南海地震 (1944,M7.9),伊豆大島近海地震(1978,M7.0),宮城県沖地震(1978,M7.4)など)の宏観異常については,その種別,頻度,観察場所,震央からの距離,地震先行時間などの詳細を図表付きで公表している.さらに,宏観異常による経験則から,実用的な震央位置とマグニチュードの予知法(力武,1987a),地震発生時期の予知法(力武,1987b)について統計的な手法を用いて検討している(力武,1995;Rikitake et al.,1995).
 宏観異常を伴った直下型(プレート内)地震としては,
 @兵庫県南部地震(1995.1.17;M7.2)(弘原海,1995)
 A濃尾地震 (1891.10.28;M7.9)(力武,1989)
 B伊豆大島近海地震 (1978.1.14;M7.0)(力武,1986)
 C長野県西部地震(1984,M6.8)(Rikitake,1993)
 Dその他(力武,1978;中国科学院,1979;Tributsch(渡辺訳),1985;宇佐美,1996).
 ・陸羽地震(1896.8.31;M7.2)
 ・福岡地震(1898.8.10;M6.0)
 ・大町信濃地震(1918.11.11;M6.1;M6.5)
 ・島原地震(1922.7.8;M6.9)
 ・但馬地震(1925.3.7;M7.3)
 ・北丹後地震(1927.3.7;M7.3)
 ・河内大和地震(1936.2.21;M6.4)
 ・鳥取地震(1943.9.10;M7.2)
 ・福井地震(1948.6.28;M7.1)
 ・宇和島湾地震(1968.8.6;M6.6)
 ・伊豆半島沖(1974.5.9;M6.9)
をあげることができ,宏観異常を伴った海洋型(プレート境界型)地震としては,
 @安政東海地震(1854.12.23;M8.4)(力武,1986)
 A関東地震(1923.9.1;M7.9)(力武,1986;静岡県,1997)
 B東南海地震 (1944.12.7;M7.9) (力武,1986)
 D宮城県沖地震 (1978.6.12;M7.4)(静岡県,1997)
 Eその他(力武,1978;中国科学院,1979;Tributsch(渡辺訳),1985;宇佐見,1996)
 ・安政江戸地震(1855.11.11;M6.9)
 ・明治三陸地震津波(1896.6.15;M8.5)
 ・三陸地震津波(1933.3.3;M8.1)
 ・新潟地震(1964.6.16;M7.5)
 ・十勝沖地震(1968.5.16;M7.9)
をあげることができる.

兵庫県南部地震の宏観異常

 日本・中国・ヨーロッパの歴史上の大地震の前には,必ずといってよいほど自然や動物に異常な現象が起こり,多くの住民に観察されてる(Tributsch;渡辺訳,1985).このような前兆的な異常に対して中国では「宏観異常」と呼んでいる.阪神大震災で6千数百名の人命を失ったことは,地震直前の危険予知の重要性を強く示唆している.ここでは兵庫県南部地震の前兆的な宏観異常について述べる.
 ことの始まりは,一昨年の阪神大震災の直後の2月10日に,マスコミを通じて「前兆的な異常を体験された方は大阪市大の学術調査団まで」とお願いし,3月末までに1519通の前兆証言が広く住民の方から寄せらた.提供された証言より,一定の基準で1,711事例を抽出し,10カテゴリーに分け集計した.自然現象は,@空と大気の異常,A大地の変化,B電磁波異常(テレビ・ラジオなどの電波障害,画像障害,リモコンの故障).動物異常は C人間,D獣類,E鳥類,F魚類,G爬虫類など,H昆虫などに区分し,I植物は数も少ないためひとまとめにした.
1. 自然現象に見る宏観異常
 @ 空と大気の異常(490ケース,29%)
 490ケース の中で,最も多かったのは地震雲(44%),月(25%),空の状態(10%),発光・稲光(8%),朝焼け・夕焼け(7%),虹(2%),その他(4%)である. 
◇異常の具体例 
・野島・須磨断層に沿って一直線でクッキリ境界のある地震雲が出ていた.
・直前の空が黄砂を撒いたように不気味だった.   
・1月10日午後11時30分頃,グレーの幕を張ったような雲を見た.
・1月15日午前6時15分頃形がステーキのような赤みをおびた雲を見た.
・数日前に2日続けて六甲山の夕焼け空に竜巻のような雲が出ていた.
・前日,京阪電車の行き帰りの車中から雲の嶺のような入道雲を冬に見た.
・1月5日正午阪大病院から飛行機雲でない灰色の長い一直線の雲を見た.
・地震の数日前の夕方,黄金色に染まった西の空に濃い灰色の一条の竜巻雲.
・1月16日pm9:00頃,空一面に巨大雲が発生していた.
・1月14日真っ青な空の中にはっきりとした太めの一筋の雲を見た.
 A大地の変化(189ケース,11%)
 この189ケースの中で,多いものから順に並べると,地鳴り(27%),地震・群発地震(19%),前震(13%),井戸水(10%),海(6%),湧き水(3%),ラドン(1%),その他(19%)である.
◇異常の具体例
・前日の夕方泉佐野市側の大阪湾が沖の方から濁ってきた.
・前日夜7時〜8時汚物と漬け物が腐ったようなガスの臭いがした.
・前夜から井戸水が全く出なくなり隣家も同じだった.
・昨年末から井戸水がすっかり少なくなった.
・4日前庭に小さな地割れが生じ地震後その延長上の壁がひび割れた.
・昨年11月に西宮市の風呂屋では,有馬温泉と同じ泉質の赤水が止まる.
・2年ほど前から地ずれとブロック塀の亀裂が目立ち始めた.
・10日ほど前から洗い場の井戸が涸れ一滴の水も出なくなった.
・昨年12月中旬頃,井戸水の水温が上がり水量がいつもより多くなった.
・昨年末,明石海峡大橋下で海底の泥が湧きあがったように海が濁っていた.
 B電磁波異常(149ケース,9%)
 この149ケースでは,テレビ・ラジオ等の電波障害(28%),テレビの画像障害(16%),リモコンの故障(14%),その他(42%)であった.
◇異常の具体例
・昨年12月17日と25日の2回三宮付近のフラワーロードを走行中ナビゲーションシステムの矢印が逆方向を向いた.
・地震の前になるとインターホンが「ジージジジー」と鳴る.
・京都へ向かう車のラジオに雑音が増え,短波放送ばかり入るようになった.
・何日か前に掛時計の針がひとりでにぐるぐる回った.
・テレビ大阪UHF局は半年も前から異常反応し始めた.
・直前テレビに波形震動が走り地鳴りの音を聞いた.
・2〜3週間前からテレビのリモコンの調子がとても悪かった.
・直前2日間冷蔵庫の音が湯が煮えたぎるような大きな音に変わっており,地震後に正常に戻っていた.
2. 動物に見る宏観異常
 C人間(91ケース,5%)
 人間も動物の側面を持ち,感度は別として,身に起こった前兆的な異常をしばしば体験する.さらに,人間特有の問題は心に起こった異変を証言できる.地震の来る前に心に何か異常な気配,特別な不安感,恐怖感,脱力感,神経の不調,ふらふら病,悪夢などを証言している.
◇異常の具体例
・当夜は,眠りが浅くひっきりなしに目が覚めていた.
・背中に痛みを感じ連夜悪い夢を見た.
・1時間前1歳5ヶ月の幼児がいつもと違い大声で泣き続けた.
・前夜“めまい”のような不安定状態におそわれた.
・地震前,2日間原因のわからない突然の鼻血が続いた.
・激しい心臓の動悸が続き眠れなかった.
・1週間前から8ヶ月の赤ちゃんの夜泣きがひどく,地震後はしなくなった.
・直前,寝ていて異常な暑さを感じ,寝汗をびっしょりかいた.
・前日JR三宮駅付近で友人と二人とても暑く感じ名状しがたい車酔い状態に陥った.
・1週間前からひどい頭痛が続き地震後2日目に無くなった.
 D獣類(324ケース,19%)
 獣類の異常324ケース(全体の19%)について,最も多かったものから示すと,イヌ(35%),ネズミ(25%),ネコ(25%)の3種類が際だっており,以下,イタチ(3%),モグラ,ウサギ,リスの各2%,ハムスター,イノシシ,イルカが各1%で,その他はわずか2%である.
◇異常の具体例
・一ヶ月前からネズミが姿を消していた.
・野良ネコが夜通し泣き続け,ハムスターはコマを回す回数が多かった.
・前日,王子動物園でトラとライオンが吠え合っているのを見た.
・おとなしい飼いネコ(ロシアンブルー)が1時間前から暴れ奇声を出した.
・30分前,我が家のイヌが玄関に向かって激しく吠えた.
・前日,飼い犬を散歩に連れていこうとするとガタガタ震えていた.
・1週間程前,数匹のネコが激しく鳴いていた.
・約40時間前須磨海浜水族館イルカショーのイルカが神経質に,また乱暴に振る舞っていた.
 E鳥類(281ケース,16%)
 この281ケースの中で最も多いものは,カラス(35%),分類不明の鳥たち(21%),スズメ(14%),カモメ(5%),ハト(4%),インコ(3%),ヒヨ(2%),キジ(2%),その他(14%)であった.
◇異常の具体例
・前日,柿の木に,スズメ,メジロ,ヒヨドリなどが無数に群がっていた.
・4日前の真夜中数羽のカラスが隣家との狭間で激しく鳴き騒いでいた.
・産卵日1月12日付けのパック入り卵10ヶ全部が「双子の黄身」だった.
・2〜3日前から自宅の電線に群がっていた数十羽の鳥が地震後姿を消した.
・大晦日の夕刻カラスの大群が東北の方向に飛んでいった.
・前日の午後3時頃加古川の田園で数百羽のハトが群がっていた.
・5日前からいつものスズメが姿を消し,ハトなど大型の鳥がベランダに飛.
・1月15−16日,1000羽におよぶ膨大な数のカラスが西の空を埋めた.
・前日,大阪市のあやめ公園に何千羽のユリカモメがいた.
・数日前数千羽のハクセキレイが新十三大橋から消え,明石市には突如カラスの大群が現れた.
・当日深夜カラスの群が異常な声で鳴き騒いだ.
・地震前,2日間の早朝数万羽とも思えるほどのスズメの大群を見た.
・直前,高安山(八尾市)の方でキジがカン高く鳴くのを聞いた.
・前日,走鳥類のエミューがしきりに飼育舎を出ようとして隙間に首を挟んだ形で暴れ,死んでしまった.
 F魚類(93ケース,5%)
 魚類の93ケースの中で最も多かったのが,名前が解らない魚が(17%),ナマズ(13%),イカ(10%),金魚(9%),ボラ(5%),グッピー・プレコ(5%),ドジョウ(5%),コイ(4%),カレイ(3%),その他(29%)であった.
◇異常の具体例
・4日早朝,6年前から飼っているナマズが水槽を割った.
・3日前(1月14日)岩屋旧一文字の海が,ボラの大群で埋まった.
・前日,武庫川河口で魚一匹釣れず,餌をかじった形跡さえなかった.
・昨年12月頃より淡路島・瀬戸内海方面からアオリイカの入荷・水揚げが過去最大だった.
・前日の武庫川一文字防波堤での釣果は,絶好の条件でもゼロだった.
・地震前,水槽内のシマドジョウが狂ったように上下運動を繰り返していた.
・1月3〜4日の夜中,ペットのカレイが水槽のフタを飛ばして外に出るほど暴れた.
・昨年11月19日,夙川にイワシの大群が上ってきた.
・昨年秋からアオリイカの空前の豊漁で地元漁師は大地震が来ると思った.
・前触れと言われている「竜宮の使い(深海魚)」が三重県で網に掛かった.
 G爬虫類など(40ケース,2%)
 この40ケースでは多かった順に,カメ(34%),ミミズ(30%),ヘビ(18%),カエル(8%),ナメクジ(5%),その他(5%)であった.
◇異常の具体例
・1週間前ネコが冬眠中のヘビの子供をくわえてきた.
・昨年からカメが冬眠に入ろうとせずガサガサと落ち着かなかった.
・1月6日頃から冬眠中のカメが動き出し夏場のように泳ぎ回ったが餌は食べない.
・2〜3日前自宅近くの社から白いヘビが出てきてうろうろしていた.
・2日前,冬眠中のウシガエルがごそごそと動き出した.
・昨年12月8日と17日にマムシが出てきた.
・前日,ゼニガメが冬眠せずに活発に動き壁際に立っていた.
・3日前からイグアナが水槽を引っ掻いたり飛び跳ねたりして暴れ必死の様子で穴掘りをしていた.
・2日ほど前大量のミミズが地上でひからびていた.
 H昆虫など(43ケース,3%)
 この43ケースで多い順に示すと,ゴキブリ(19%),アリ(19%),チョウチョハチ・クモ・ムカデ(各9%),クワガタ(5%),名前が解らない虫(5%),その他(16%)であった.
◇異常の具体例
・2日前何十匹ものムカデが木の根から出て山に向かって行った.
・昨夏から出始めたゴキブリが2〜3日前からいなくなった.
・5時間ほど前複数の虫が固まって畳を強くこする音がした.
・3日前からゴキブリがヨタヨタと部屋の中央に出て動こうとしなかった.
・1週間前カナブンの幼虫が2匹土中から出てきて足をバタバタさせたいた.
・1週間前からブヨを大きくした感じの虫が数十匹天井に集まっていた.
・1月に入ってからわが家のクモが1匹もいなくなった.
・昨年1月真夏の昆虫であるクワガタの成虫が学校の庭にいた.
・3〜4日前カイコが1列に並び余震の4日前にも同じ行動をとった.
 I植物(11ケース,1%)
 竹の花,山ボウシの花,椿の花,生体電位,イネ科の葉の縮み
◇異常の具体例
・昨年8月「竹の花」の花だけが地面から顔を出し咲き始めた.
・正月に山ボウシの花が狂い咲き,昨年は山モモの木が実を付けなかった.
・地震前,例年より早く椿が300個以上の花を付け,紅葉のようだった.
・1月14日,ケヤキの生体電位が「異常」を示した.
・去年7月後半から咲き出したアサガオが地震の日まで半年間も咲き続けた.
・水はたぷり撒いたのに庭の植木がどんどん枯れていった.

前兆的な宏観異常の収集と活用

1. 宏観異常調査への批判と対応
 大震災直後に集めた宏観異常の情報に対して,一部から厳しい批判が寄せられている.それらは,「証言者は地震を体験し,地震の厳しい状況から錯誤して前兆的な異常現象にこじつけた可能性が高い」,「すべは“アト”予知にすぎず,意味がない」,「科学的な根拠がないものが殆ど」などと言ったものである.これらの意見を冷静に受け止め,どの様に対応すれば検証できるかを検討した.その方法の一つは,実際に未来地震に対して,前兆的と思われる宏観異常を全国の住民の方に呼びかけてリアルタイムであつめ,それ以後に起こる地震との関係を確かめる,いわゆる“マエ”予知的なフィールド検証である.
2. ファックス・パソコンネット・電子メールによる情報の収集と公開
 阪神淡路大震災の直後から今日まで,2年以上にわたり,前兆的な宏観異常の提供を各地の住民の方から,フリーダイアル・ファックス専用(0120-119-144),パソコンネット(NIFTY-Serve:MXL01456)や電子メール(wadatumi@big.ous.ac.jp)などを通じて受信し,一週間単位で集計し,結果をNIFTYの掲示板とインターネット試行ホームページで公開してきた.しかし,週間単位の処理サイクルでは,著者サイドでの検証には十分でも,地震の危険性を予報をするには速報性が不十分である.そこで日本全国を対象に,365日,24時間,リアルタイムに対応できるインターネット対話型データベース・システム(弘原海他,1997.6)を内蔵した地震危険予知システムを開発中である.
 平成9年6月から実用ホームページPISCO(Precursory Quake-Information System based on Citizen's Observation):URL=http://www.pisco.ous.ac.jp/ は,α版(1997,6-7月),β版(8-9月),実施版(10月〜)という経過を経て導入されてきた.実施版の導入実現と信頼性の確立は情報モニターの充実が大切な視点である.
3. 地震規模と地震頻度との関係
 この2年間のフィールド実験で,未来地震についてまず気づいたことは,地震国日本では大小さまざまな地震が実に数多く発生し,しかも,地震規模の小さな地震ほど級数的に数が増大することである.アト予知的な研究に熱中していると,とかく大きな被害地震だけが単独に襲ってくるような錯覚に陥りやすいが,実は大部分は被害のない震度4以下程度の地震で,それが毎日のように起こっている.
 多少でも危険を伴う地震が日本で年間どれほど発生しているか,高校の教科書(友田・松田,1996)から引用する.日本全国で1961〜1985年の25年の年平均の地震発生回数は,予知が必要なM7.0以上で年2回,M6.0〜M6.9で年12回,M5.0〜M5.9で94回である.ここで検討している地震危険予知システムPISCOでは,危険性のないM5以下の地震,深度の特に大きな地震(100km以深)は対象外としている.さらに,海洋型の海岸から遠い地震は,1ランク上のM6以上のみを取り扱う.
4. 宏観異常の予知能力
 この2年半の運用から,宏観異常である程度,地震発生の場所や時間がつかめそうなのは,M6前後の直下型の地震であった.しかし情報量が限られ,まだ幸いにも大きな地震を経験していないことから,本命の地震に対して詳細がつかめない.この2年間に寄せられた宏観異常で多いのは,カラス,地震雲,TV電磁波,月の色,地電流,植物生体電位などである.竜巻き地震雲,発光,動物異常は有効に思える.これら宏観異常の情報は傾向として,時間指示的,場所指示的,および,規模指示的な特性がかいま見えるが,すべてに有効と言えるものはつかめない.総合的な判断の必要性が強く認識されるゆえんである.
 地震規模と宏観異常の先行時間との関係は,概念的には,地震規模の大きな地震ほど宏観異常の出現割合が多い,小さな地震ほど少ない.また,同じ規模の地震でも,観察モニターの密度が高いほど先行時間が早く,小さな地震ほど短い.このことは観察モニターの数が増加すれば,早い時期から,またより小さな地震で予知が可能になろう.
5. ノイズの分離と地震危険予知
 結局のところ,このPISCOは宏観異常を地域住民からリアルタイムに収集し,集計処理で特定地域に同時多発的する状況を認定することでノイズを識別分離し,時間的・空間的な異常発生の状況を地図やグラフで地域住民に返信する,そのようなホームページサイトである.住民サイドは個別的な情報で地震前兆かどうかを自己評価するのでなく,宏観異常を直ちに送信し,全体の中で検討する方向に向かうべきであろう.すなわち,個々の情報だけで絶対的な評価を下すことは大変難しいと著者は考えている.情報をみんなで共有し,従来の科学的な知識(空白域や活断層など)とも重ねて総合的な評価を加え,各自で危険性を認知し,自己責任で行動する.そのような行動を支援する目的でこのPISCOは計画されてきた.
6. 宏観異常による地震危険予知の理念
 基本姿勢“Save our lives by ourselves
 @草の根システム:基本の活動は個人を単位とし,自由参加のボランテイアで構成する.日常業務の拘束とは完全に独立した個人の責任で参加する.
 A活動目的:未来の地震から自分たちの命を自分たちで守る.何も知らされず,突然命を失うことは,阪神淡路大震災の六千数百人の犠牲者で最後にしたい.
 Bオープンシステム:情報は最初から最後まで公開とし,その情報システムの各プロセスに自分が参加していることの大切さを学ぶ.
 C自己責任システム:オープンな情報ネットワーク(インターネット)で情報を流通させる.個人でもマスメディアでも原則的なモラルの範囲で情報は活用できるが,その結果は自己責任を原則とする.

ま と め

 1. 21世紀の情報地質学の基本的課題として,伝統的な地質学との関係と相互の役割,急激に進展する情報通信技術の活用,地域との連携の確立,の三つをあげた.
 2. この様な課題の実践として,著者が現在取り組んでいる「地震危険予知システム」の理念と情報地質的な知識・具体的な技術の諸問題を例示した.
 3. 21世紀には地質学も情報地質学も人間主体の科学,地域に密着した情報ネットワーク,そして自己責任と自発的行動が重要なキーワードになると考える.

文    献

中国科学院生物物理研究所地震グループ・現代中国科学研究会(訳),1979,動物が地震をしらせた.長崎出版,158p.
石川有三,1990,日本列島内陸部の地震活動空白域−序論−.月刊地球,6,355-361.
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石川有三,1995a,地震空白域の意義.月刊地球,号外13,71-80.
石川有三,1995b,日本の地震空白域.パリティ,7,47-52.
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力武常次,1987a,前兆現象の経験則に基ずく実用的地震予知(1)−震央およびマグニチュード−,地震,40,213-223.
力武常次,1987b,前兆現象の経験則に基ずく実用的地震予知(2)−地震発生時期−.地震,40,605-617.
力武常次,1989,濃尾地震の前兆現象.地震,42,451-466.
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友田好文・松田時彦,1996,地学U.啓林館,東京,250p.
Tributsch, H, 1982, When the Snakes Awake-Animals and Earthquake Prediction. MIT Press, 248;渡辺正(1985訳)動物は地震を予知する.朝日選書,220p.
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弘原海清,1995,阪神大震災「前兆証言1519!」,東京出版,266P.
弘原海清,1997,環境情報地震学−その現状と地震危険予知への道−.Eco-J,6,4-29.
弘原海清,Raghavan, V.・米沢 剛・能美洋介,1997,インターネット利用による宏観前兆情報の対話型データベース・システム,要旨GEOINFORUM'97.

 

   (要  旨)
弘原海清,1998,宏観異常による地震危険予知―情報地質学の歩みと展望に照らして―.地質学論集,第49号,159-166.(Wadatsumi, K., 1998, Precursory quake-information system based on citizen's observation of natural phenomena : a geoinfomatics viewpoint. Mem,Geol. Soc. Japan, no.49, 159-166)
 阪神・淡路大震災(1995.1.17;M7.2)の直前,京阪神地域の多くの住民は前兆的な異常(宏観異常)を目撃していた.大阪市立大学の学術調査団は,地震直後の2月10日,マスコミを通じて一般住民が観察した宏観異常の情報提供を広く呼びかけた.この呼びかけに応じて,4月末日までに1,519人から証言的な情報が提供された.この宏観異常の内容は,各種の動物の異常行動,鳴動・群発地震,温泉,地下水などの地象異常,各種の異常な雲,赤色の月・発光・テレビやラジオでの電磁気異常などで,住民は地震の前触れと認識した上で調査団に報告してきた.この証言を分類・集計して著書にまとめ公表した(弘原海,1995).その結果から,宏観異常は震源地に近づくほど多発し,地震の約30日前頃より住民に感知され始め,直前24時間から著しく増大する.この異常発生の先行時間は日本や世界の被害地震のそれとほぼ共通した特徴を示す.このような宏観異常の情報が地震前にリアルタイムに収集・処理できれば,地震危険予知につながる可能性がある.インターネットに代表される今日の情報化時代,対話型のオンライン・データベースを備えたホームページ・サイトを整備し,日本全国から宏観異常を24時間365日,連続して収集するシステムを開発することは不可能でない.著者が現在開発中の地震危険予知システム(PISCO;Precursory Quake-Information System based on Citizen's Observation)の開発理念」と機能概要について,情報地質学の歩みと展望に照らしながら評価した.

論文・成果