<リード>
FM電波に異常があった。大気イオン濃度が急上昇していた……。新潟県中越地震でも、「前兆現象」をとらえたという話が相次いでいる。地震の活動期に入ったともいわれる日本。現代の科学では困難とされる地震予知に、「前兆」から迫れないものだろうか。
<本記>
新潟県中越地震発生2日前の10月21日―。
神奈川県海老名市の県産業技術総合研究所などが主催した研究発表会で、厚木市にある神奈川工科大工学部4年生の男子学生がこう言った。
「近いうちにマグニチュード(M)6以上の規模の地震が起きる可能性があります。場所は、関東地方周辺だと思いますが、詳しくは……」
「予知」の根拠となったのは、「大気イオン濃度の変化」だ。
同大学助教授の矢田直之氏(熱工学)の研究室では、昨年から大気中のイオン濃度を測定している。
矢田助教授によれば、大気中のイオンは「大イオン」と「中小イオン」に分けられ、その濃度は通常、それぞれ大気1cc当たり500から千個。しかし、地震や火山の噴火が起きる前には地殻の割れ目からイオンが放出され、濃度が何十倍にもなるというのだ。
研究室の測定では、9月2日に大イオンの濃度が1万5千個を超え、4日には6万5千個と異常に増えた。そして翌5日、紀伊半島沖でM6.9、東海道沖でM7.4の地震が連続して起きた(32ページのグラフ)。
大イオンの濃度は10月にも異変があった。11日に1万4千個、12日には7万1千個と急上昇、いったん収まった後、20日に再び1万個近くまで上がった。今回の地震が発生したのは、その3日後のことだった。ちなみに浅間山の噴火前日の8月31日には、中小イオンが9万個に達している。
矢田助教授が解説する。
「噴火では前日に、中小イオンの濃度が上がります。地震の場合は、大イオンの濃度が一度大きく上がった後いったん引いて、2度目の上昇があった2、3日後に地震が発生しているようです」
矢田助教授を指導している大阪市立大の弘原海清・名誉教授(環境地震学)は、97年から同様の研究を始めている。失敗もあったが、01年3月の安芸灘を震源とする芸予地震(M6.7)では、発生1週間前に通常の5倍に急上昇したという。
弘原海さんは今年4月、NPO法人「e-PISCO」を立ち上げ、岡山など全国5ヵ所で測定に乗り出した。
「測定点を全国各地に増やさないと、場所の特定まではできないが、大気イオンは、測定地点から約300キロの範囲の地震や噴火がわかるうえ、地震の前の異常現象の中でも早く起きると思われる。地震の大きさと濃度の関係も、だいたいわかってきました」 |