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大阪府のNPO法人「大気イオン地震予測研究会」(e-PISCO)は、大地震発生の前兆に起きるとされる大気イオン濃度の異常上昇を検知し、地震を予知する手法を研究している。東北地方に唯一、金ケ崎町内に測定点を設置しているが、今回の東日本大震災については、震源地近くの金ケ崎ではなく、長野県などで異常値を検出。予知精度を高める上での課題は、まだまだ多いようだ。
<本記>
地底のプレート運動によって起きる地震では、地殻に圧力がかかり、圧力に耐え切れなくなったときに揺れが発生する。同会が研究する予知方法は、この一連の流れの前段部分、つまり地殻に圧力がかかっているときに生じる現象を利用する。
同会の仮説によると、圧力がかかった地殻に微細な亀裂が生じ、そこから、常温で最も重い気体として知られる「ラドン(Rn)」が放出される。ラドンは大気に触れることでプラスイオン(電荷を持った原子)に変化。これに、大気中の小さなほこりなどが付着し、重くなって地上へと落下する。
通常時も大気イオン自体は存在するが、イオン濃度が異常に高いとなれば、何らかの地殻変動が起きているとし、地震発生の予知につなげることができる――という考え方だ。
同会は昨年5月、金ケ崎町西根森山の富士通ファシリティーズ・エンジニアリング岩手事業所内に測定機器を設置。東北地方での設置は金ケ崎のみだ。
同会の仮説が適切であれば、東日本大震災の震源地に最も近い金ケ崎で、大気イオン濃度が高まる可能性が高かったが、異常値は確認されなかった。ところが、遠く離れた金沢市と長野県松本市の観測点で、昨年12月下旬から3カ月間にわたり、大気イオン濃度の異常が頻発した。
長野、石川は全国7カ所ある正規測定点。金ケ崎は10カ所ある補助測定点に当たる。同会事務局は「補助測定点より、正規測定点に精度がかなり高い機器を設置していることもあるのではないか」とみるほか、地底プレートの位置との関連性もあると推測する。
イオン濃度の異常を検知し、その情報を発信はしていたものの、それが「いつ、どこで、どれくらい」という"予知の3要素"に即して的確に示すことはできなかった。
同会は「予知によって、少しでも被害を減らそうとする目的を示していながら、このような未曽有の大震災を事前に予測できなかった点は、関係者一同が反省している。今回の地震で判明した点を今後の研究活動に生かしたい」としている。
科学的に地震を予知する試みは、地震学や地質学などさまざまな学問によるアプローチによって研究されている。それぞれの手法に対しては、科学的根拠や信頼性の問題などから肯定的、否定的な議論が学者間で繰り広げられている。
大気イオン地震予測研究会 大阪府に本部を持つNPO法人。岡山理科大学総合情報学部創設時に設立した地震危険予知のプロジェクトが前身。理事長の弘原海清氏=大阪市立大名誉教授=が1月に逝去したことに伴い、副理事長の矢田直之氏=神奈川工科大学工学部准教授=が理事長代行を務める。地震の前触れに発生するといわれる、特異な現象「宏観異常現象」についても研究している。ホームページはhttp://www.e-pisco.jp/。 |