【見解】
われわれe-PISCOでは、全国7か所の正規測定点(および10か所の補助測定点)にて24時間大気イオン濃度の変動を測定することで、地震の予知を目指している。これらの測定点のうち長野・松本測定点および金沢測定点では、2010年12月下旬から2011年3月下旬までの約3か月間にわたって大気イオン濃度異常が頻発するという同測定点では過去に例を見ない現象が測定された。
e-PISCOでは正会員向けの「週刊大気イオン変動ニュース」(1月21日号)で「北陸信越地方でM5クラス」の地震が発生するという予測を発表した。この予測は、最初の異常から約2か月経過した2月27日、岐阜県飛騨地方を震源とするM5.5の地震が発生したことで、予測成功と考えた。しかし、この地震の後も松本や金沢では大気イオン濃度異常がつづいたこと、さらに先行時間(大気イオンの異常から地震発生までの期間)が長い割には地震の規模が小さかったことを踏まえ、飛騨地方の地震にとどまらず、同程度かさらに大きな地震が発生するおそれがあるものと考え、「週刊大気イオン変動ニュース」においても地震に対して警戒を継続するように、注意を促していた。
松本、金沢の大気イオン異常が収まらない状況で、3月11日14時46分頃、太平洋プレートと北米プレートの境界でM9.0の東北地方太平洋沖地震が発生した。その後、北米プレートの西側に存在するユーラシアプレートとの境界に近い地域で、M6以上の規模の大きな地震が相次いだ。12日03時59分には長野県北部でM6.7、12日04時46分に秋田県沖でM6.4、15日22時31分には静岡県東部でM6.4が発生している。これらの地震は、いわゆる東北地方太平洋沖地震の余震域とは離れた地域で発生しているが、本震で生じた北米プレートのひずみを解消すべく発生したものと考えられ、広い意味では余震(正確には誘発地震)と考えるべき地震である。
今回のM9.0巨大地震は想像を絶する規模であったため、前兆現象も思わぬところで発現した可能性がある。すなわち、本来ならば震源に近い測定点で大気イオンの異常が起きると考えられるが、実際には震源に近い岩手・金ケ崎町などの補助測定点よりも松本、金沢で前兆と思われる異常が現れている。
M9.0のエネルギーが解放される前には、東北地方が乗っている北米プレート先端部に非常に大きな圧力がかかっていたのは間違いない。北米プレート先端部は細長くなっていることから、太平洋プレートとは反対側のユーラシアプレート側の境界付近にも相当な圧力がかかっていたものと考えられる。その前提に立てば、2月末の飛騨地方の地震や松本および金沢測定点の異常値も、巨大地震との関連性を否定できない。また、1月9日と2月27日の静岡・沼津測定点、2月14日の神奈川・厚木測定点の異常値も巨大地震および周辺の地震と関連するものと思われる。ただし、2011
年1月から 3 月にかけての期間において、あまりにも多くの大気イオン濃度異常と地震活動があったため、地震前兆としての大気イオン濃度異常を捉え、会員の皆様に注意を促すことはできたものの、東北地方太平洋沖地震やそれに誘発されて発生したと考えられる地震活動を地震予知の三要素(日時、場所、規模)に即して的確に予測することはできなかった。
地震予知を研究テーマに選び、震災による被害の減災を目的に掲げながら、このような未曾有な大震災(大地震)を事前に予測できなかった点は、本法人として関係者一同が深く反省しているところである。大気イオンによる地震予知については、海域で発生する地震についてはその予測精度が低下することや測定点の不足が指摘されており、今回の地震によって新たに判明した点も踏まえた上で、今後の活動に生かしていきたいと考えている。 |